研究実績の概要 |
2020年度の時計周期変調化合物を利用した研究で示唆された、花成ホルモンを介さない時計による花芽形成制御の可能性を別の研究手法によって検討した。花成ホルモン遺伝子の変異体であるft tsf二重変異体に、ある時計遺伝子を過剰発現させ、花芽形成への影響を解析することを目的とした。ft tsf二重変異体は、超遅咲きであり、この株に対して形質転換をすること、またその次世代を取ることだけで10ヶ月を要した。形質転換後の孫世代(T2世代)での予備的な結果ではあるが、この時計遺伝子の過剰発現は、ft tsf二重変異体においても、花芽形成遺伝子を部分的に誘導することができていた。このことから、花成ホルモンを介さない時計による花芽形成制御の存在がより確かなものとなった。一方で、この時計遺伝子の過剰発現はft tsf二重変異体の中では、花成時期の早期化を引き起こさないことも分かったため、時計・光周期による花成ホルモンの誘導が、花成時期決定に対して必要不可欠であることも判明した。 時計による花芽形成のメカニズムを探るため、時計転写因子による花芽形成遺伝子の直接的制御の可能性を検討した。そのため、機能的な時計転写因子を発現する株を作成し、その株を用いてクロマチン免疫沈降を実施した。これまでテストしたいずれの時計転写因子も、花芽形成遺伝子の想定プロモーター領域には結合していない。 主要穀物において、時計遺伝子の変異が花芽形成時期の調節を介して栽培地域の拡大に寄与してきたことが知られている。これに関する最新の知見をまとめるとともに、時計遺伝子の変異の様式をとりまとめ、将来的なゲノム編集への指針を提言した(Maeda and Nakamichi, Plant Physiology, 2022)。
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