植物は特殊化した細胞を獲得することで環境に適応してきた。例えば、孔辺細胞は表皮に存在し、ガス交換に働いている。別の特殊化した細胞としてミロシン細胞がある。ミロシン細胞は維管束に沿って分布し、生体防御に働いている。ミロシン細胞と孔辺細胞の分化はどちらもbHLH型転写因子FAMAによって制御される。しかし2つの細胞がどのように作り分けられているか不明であった。本研究ではFAMAの新規の下流標的因子を同定することでこの謎に迫った。前年度に、FAMA誘導系を用いたRNAseq解析により同定した新規転写因子WSBに着目し、研究を進めた。解析に必要なレポーターラインと変異体、及び蛍光タンパク質融合WSBを発現する相補株を作製した。変異体解析により、ミロシン細胞分化は新規のFAMAの標的因子WSBに制御されていることがわかった。興味深いことに、WSB変異体では、孔辺細胞分化に顕著な異常は観察されなかった。FAMAと異なり、WSBがミロシン細胞分化に重要な働きを持つことが明らかとなった。本成果は、植物が共通のマスター転写因子を利用して2つの異なる細胞を生み出すメカニズムに迫るもので、そのインパクトは大きいと期待される。さらに、WSBの下流標的因子をRNAseq解析により同定し、既知のscRNA-seqデータと組み合わせることで、WSBの下流で働きかつ、1)ミロシン細胞特異的に発現する遺伝子、2)孔辺細胞特異的に発現する遺伝子、3)両方の細胞で発現する遺伝子に分類した。WSBの下流ではオルガネラ分化やオーキシン経路が制御されている可能性が浮上した。得られた成果の一部を、論文発表として報告した。
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