被子植物の雄性配偶体である花粉管は、管状の栄養細胞の内部に2つの精細胞をもつ特殊な構造をしており、精細胞を雌しべの奥深くにある卵細胞へと届けるために必須の役割をはたす。花粉管は数百μmごとにカロースに富んだカロースプラグとよばれる隔壁を形成する。カロースプラグは花粉管の原形質を先端側に維持することで、花粉管の伸長に関わると考えられている。本計画ではカロースプラグの周期的形成を制御するメカニズムの解析を行った。 2020年度は画像解析に適したカロースプラグの写真を得る花粉の培養条件と撮影条件を検討し、0.1%の低融点アガロースを添加した培地上で伸長させた花粉管を培地ごと押し潰すことで簡便かつ安定して観察できることを見出した。この方法で得られた画像により、今後はカロースプラグの形成の位置を自動抽出する系の開発が期待される。 さらに今年度は、花粉管における細胞核の位置制御がカロースプラグ形成にはたす役割を解析した。カロース合成酵素の変異遺伝子cals3mの発現による精細胞壁のカロース過剰蓄積が精細胞の先端輸送能力を欠損させることを見出した。これを花粉管栄養核の移動能を欠損する wit1 wit2二重変異体に導入して、細胞核が基部側から全く移動しない花粉管を作出したところ、そのカロースプラグが形成されるタイミングや個数について野生型と有意な差はなかった。したがって、カロースプラグの周期的形成は精細胞や花粉管栄養核との距離によって決められるのではなく、細胞自律的な仕組みによって制御されること が示唆された。
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