研究領域 | 高速分子動画法によるタンパク質非平衡状態構造解析と分子制御への応用 |
研究課題/領域番号 |
20H05436
|
研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
田中 伊知朗 茨城大学, 理工学研究科(工学野), 教授 (20354889)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | リゾチーム酵素 / 反応機構再解明 / 高速分子動画 / 反応遅延 / X線高分解能構造解析 / 中性子解析 |
研究実績の概要 |
リゾチームは細菌の細胞壁ペプチドグリカンを構成する多糖成分の間のグリコシド結合を加水分解する酵素である。現在、最も強く提唱されている反応機構は、リゾチームの中間体は共有結合を形成して反応が進行するというものであるが、これはリゾチームと共有結合を作りやすいフッ素系リガンドで行った不自然かつ共有結合を形成するのが当然な条件下での結果によるものである。リゾチームの反応が生体内で進む際、より自然な系で観察するため、N-アセチルグルコサミンの4量体((NAG)4を基質に用いた条件で、酵素反応に関係する水和水の位置情報や触媒基の水素結合等を,X線回折実験を行い解析した。この系はリゾチームの加水分解における前半のモデル系と考えられる。 X線解析では、pH4.5の1.03Å高分解能データ解析にて、リゾチーム単独の状態と比べて、4量体目のNAGが一部加水分解されている状態をとらえることができた。また、問題の触媒反応機構に関係する基質とアミノ酸との相互作用が明らかになった。リゾチームの触媒残基Asp52の側鎖と(NAG)4のC1の距離は結合するには長すぎると考えられること、Asp52側鎖に対して周辺の水素結合が比較的強く形成されているので、C1との共有結合に必要なAsp52側鎖の回転が起こりにくいことが推測できた。水素結合のさらなる解析のために、pD4.5の(NAG)3及び(NAG)4複合体それぞれの中性子回折データも収集した。 さらに、高速分子動画をpHジャンプ等で撮影するための準備として、リゾチームの加水分解を遅くするための条件探索のために、溶菌法を用いた濁度の時間変化測定を行った。広範囲のpH条件に対して、各種抗凍結剤や重水などを使用して実験を行った。この結果、pD2.4で最大活性に対して約1/250の速度低下を観測し、大きな加水分解反応速度の低下がみられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モデル系ではあるが、X線解析結果を論文化できたことと、pD4.5の(NAG)3及び(NAG)4複合体それぞれの中性子回折データも収集できたこと、さらには、反応遅延条件についてある程度目途を立てられたため。
|
今後の研究の推進方策 |
データ収集が完了したpD4.5の条件での(NAG)3および(NAG)4複合体の中性子回折データを解析して、水素を含めた水素結合の考察を始めるとともに、反応遅延を光学的にとらえて、XFEL実験ができるような系を確立する。
|