公募研究
時分割実験データを補完する分子シミュレーション法の適用範囲をさらに広げるため、新しいPaCS-MD法であるeePaCS-MDを開発し、J. Chem. Phys.誌上に論文発表した。eePaCS-MD法は、ターゲットとなる別の立体構造や指標がなく、1つの立体構造のみが得られた時にこの構造からどのような構造変化が起こりうるかを予測する方法である。具体的には、探索された立体構造空間の主成分分析を行い、数個の主成分で張られる多次元空間内の頂点をConvex Hull法を用いて選び出し次のサイクルの出発構造として採用することで、ドメイン運動などの大振幅の構造変化を従来法よりも高効率で予測することを可能にした。またCOVID-19の原因となるSARS-CoV-2ウイルスのエンドヌクレアーゼNsp15を阻害する化合物の探索をおこなった。Nsp15は機能状態で6量体を形成するが、単量体に結合・安定化し、6量体化を阻害する化合物によってNsp15の機能を阻害し、感染能を低下させることを目指したものである。PaCS-MD/MSM法を用いて単量体の自由エネルギー地形を調べ、単量体が最も取りやすい立体構造を明らかにし、これをターゲットとしてバーチャルスクリーニングを行い、有力な化合物を選び出し、dPaCS-MD/MSMによって化合物の標準結合自由エネルギーを評価した結果、非常に強い結合能をもつ化合物を発見することができた。この研究成果については論文執筆の最終段階にある。また本領域の名古屋大学清中グループとの共同研究でGタンパク質共役受容体mGlu1とリガンドの相互作用解析を進めている。アミノ酸変異やリガンドのわずかな違いによって生じるmGlu1への効果の違いを評価するためにMD計算によって動的立体構造に生じる違いの評価を進めた。
2: おおむね順調に進展している
新しいPaCS-MD法であるeePaCS-MDを開発に成功し、論文発表ができたほか、SARS-CoV-2ウイルスのエンドヌクレアーゼNsp15を強く阻害する化合物を発見できた。これに加えて本領域の名古屋大学清中グループとの共同研究を開始することができたことなどから、おおむね順調に進展していると考えている。
昨年度に引き続き、更に研究を進める。具体的にはPaCS-MD/MSM法を駆使して構造変化のアンサンブルを生成し、実験との対応関係を調べることで、時分割実験で得られるアンサンブル平均的な時系列と確率過程的に振る舞う個々のタンパク質分子の振る舞いの関係を明らかにすることを目指した研究を継続する。立体構造変化・結合・分子の移動に関わる自由エネルギー地形や各構造変化経路の流量の解析を行い、分子の動きを明らかにする。可能なものについては実験との比較を行い、結果を検証する。結合によってタンパク質の機能を変化させる分子や反応する分子の結合親和性等を予測し、また結合の効果も検証する。具体的には結合の安定性や、結合による機能の変化をシミュレーションから予測する。
すべて 2021 2020 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件) 学会発表 (11件) 備考 (4件)
Cell
巻: 184 ページ: 1884-1894 (e14)
10.1016/j.cell.2021.02.041
J. Chem. Phys.
巻: 152 ページ: 225101
10.1063/5.0004654
J. Cell. Sci.
巻: 133 ページ: 1-13
10.1242/jcs.246785
アンサンブル: 分子シミュレーション研究会会誌
巻: 22 ページ: 151-156
現代化学
巻: 6 ページ: 50-51
http://www.kitao.bio.titech.ac.jp/
https://twitter.com/compprosci
https://www.facebook.com/CompProtSci/
https://www.youtube.com/channel/UCuUd9AnHzKNHPqRt7PHy99g/videos