研究領域 | 高速分子動画法によるタンパク質非平衡状態構造解析と分子制御への応用 |
研究課題/領域番号 |
20H05440
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
片山 耕大 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00799182)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 動物ロドプシン / 時分割結晶構造解析 / 低温赤外分光測定 / XFEL |
研究実績の概要 |
本研究では、視覚を担う光受容タンパク質 (視物質) の機能発現における構造ダイナミクスの実時間観測を実現し、光吸収および光情報伝達の分子機構を解明することを目的とする。具体的には、明暗視を担う視物質 (動物ロドプシン) に対し、X線自由電子レーザー (XFEL) を駆使した時間分解X線結晶構造解析 (時分割構造解析) に挑戦する。さらに、赤外分光法および蛍光分光時間測定を用いた、光反応中間体の構造解析や、Gタンパク質の活性化評価などの機能解析も試みることで、動物ロドプシンの高い光感度を実現する分子機構の解明を目指す。今年度は動物ロドプシンにおいて、第3細胞内ループ (ICL3) を水溶性タンパク質に置き換えた改変体に対し、低温赤外および全反射赤外分光法による振動分光構造解析を実行した。その結果、レチナールの異性化直後に生成する初期中間体バソの観測、さらに、メタII中間体に特徴的な膜貫通ヘリックス6番の大きな構造変化に対応するアミドIバンド (ペプチド骨格のC=O伸縮振動) が観測された。従って、結晶化に用いる動物ロドプシンは正常な光反応、構造変化を生じることが分かったため、今後、微結晶取得のための結晶化条件の探索を継続して行う。 また、部位特異的変異体の分光測定を実施する過程で、これまで明暗視、色覚、両者の違いを生む要因として重要視されてこなかったアミノ酸を発見した。実際、色覚視物質に対し、対象となるアミノ酸の変異体の蛍光分光光度計による光退色速度を測定した結果、野生型の10倍遅くなることが分かった (色覚視物質は動物ロドプシンよりも1000倍程度退色速度が速い)。今後、両視物質間での相互変換変異体を作製し、低温赤外分光測定および蛍光分光によるGタンパク質活性および光退色速度を行うことで、光反応ダイナミクスの違いが生じる分子機構の解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
XFELを用いた時分割構造解析を行うためには、動物ロドプシンの微結晶が必要になり、脂質キュービック相法 (LCP法) の適用が必然である。さらに、熱安定性の向上や良質な微結晶取得のためにタンパク質工学技術を駆使した動物ロドプシンの改変アプローチが望まれる。他方、結晶構造解析を行う上で、結晶中の分子間相互作用などによるアーティファクトを含む可能性や、タンパク質工学技術により改変させた動物ロドプシンが、正規の光反応、活性化及びGタンパク質との相互作用、といった機能を保持しているかを検証することが重要となる。そこで、今年度は動物ロドプシンにおいて、第3細胞内ループ (ICL3) を水溶性タンパク質に置き換えた改変体に対し、低温赤外および全反射赤外分光法による振動分光構造解析を実行した。その結果、レチナールの異性化直後に生成する初期中間体バソの観測、さらに、メタII中間体に特徴的な膜貫通ヘリックス6番の大きな構造変化に対応するアミドIバンド (ペプチド骨格のC=O伸縮振動) が観測された。従って、結晶化に用いる動物ロドプシンは正常な光反応、構造変化を生じることが分かったため、今後、微結晶取得のための結晶化条件の探索を継続して行う。 一方、生成した結晶が溶液条件と同様の光吸収反応及び続く構造変化を示すかどうか検証する必要がある。現在、結晶そのものを赤外分光測定する技術は確立していないことから、微結晶取得と並行して、結晶に対し分光測定を行える系を構築を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
時分割構造解析に向けて、継続して微結晶取得のための結晶化条件の探索を行う。また、今年度、熱安定性の向上や良質な結晶を得るために、動物ロドプシンの第3細胞内ループ (ICL3) に水溶性タンパク質を挿入したが、今後挿入場所を変えた改変体を並行していくつか作製し、結晶化を試みる。 低温赤外分光解析では、動物ロドプシンの微結晶を直接測定できる系を構築し、時分割構造解析に向けた構造変化に関する知見を得る。さらに、明暗視・色覚、両者の機能を違いを生み出す視物質のアミノ酸を発見したため、今後このアミノ酸の相互変換変異体に対する網羅的な分光測定を実施し、構造・機能相関の理解を深める。
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