本研究では、視覚を担う光受容タンパク質 (視物質) の機能発現における構造ダイナミクスの実時間観測を実現し、光吸収および光情報伝達の分子機構を解明することを目的とする。具体的には、明暗視を担う視物質 (動物ロドプシン) に対し、X線自由電子レーザー (XFEL) を駆使した時間分解X線結晶構造解析 (時分割構造解析) に挑戦する。さらに、赤外分光法および蛍光分光時間測定を用いた、光反応中間体の構造解析や、Gタンパク質の活性化評価などの機能解析も試みることで、動物ロドプシンの高い光感度を実現する分子機構の解明を目指す。今年度は、明暗視のみならず色覚を担う動物ロドプシン (色覚視物質) のX線結晶構造解析に取り組んだ。視物質ロドプシンと同様、ICL3を水溶性タンパク質に置き換えた改変体をいくつか作製し、熱安定性評価、サイズ排除クロマトグラフィーによる単分散性評価、さらに改変体に対し、構造予測ツールを用いて構造モデル化を実行した。そして、有望そうな改変体2種を大量発現、精製し、LCP法による結晶化を実施した。今後、さらなる結晶化条件の検討を行い、良質な結晶獲得を期待した。 また、領域代表の岩田想教授、研究協力者である関西医科大の寿野良二講師、共同研究者である東北大の井上飛鳥准教授との共同研究により、全反射赤外分光法でGPCRの一つ、ムスカリン性アセチルコリン受容体に対する、異なる薬剤効能を有する各種薬物結合に伴う構造変化を捉えることに成功し、Communications Biology誌に発表した (Katayama et al. Commun. Biol (2021))。さらに本研究は従来の構造ベースの薬物結合ポケットを基盤とした薬剤設計指針とは異なる、相互作用解析から動的構造情報を抽出し薬効度を制御する新たな薬剤設計指針を提示できると期待され、日本経済新聞に取り上げられた。
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