研究領域 | 高速分子動画法によるタンパク質非平衡状態構造解析と分子制御への応用 |
研究課題/領域番号 |
20H05441
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
林 重彦 京都大学, 理学研究科, 教授 (70402758)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 分子シミュレーション / ハイブリッド法 / 光受容体チャネル / 膜輸送体タンパク質 |
研究実績の概要 |
多くのタンパク質の分子機能は、化学反応活性部位における精緻な酵素反応や光化学反応が制御する大規模な構造変化によって発現するマルチスケールな現象である。最近の X 線自由電子レーザーによる時間分解シリアルフェムト秒結晶構造解析(TR-SFX)は、このような機能発現過程の分子のダイナミクスの原子レベルから観測を可能にしている。本研究では、TR-SFX 観測で得られた時分割の電子密度の情報と我々の開発してきた高効率な QM/MM RWFE-SCF 自由エネルギー最適化法や、大規模構造変化のシミュレーションを可能にする LRPF 法を組み合わせることにより、長い時間領域の構造変化の高精度なモデリングを可能にする手法の開発を行った。本年度は以下の成果を得た。 1.ハロロドプシン塩化物イオンポンプの光活性化状態のモデリング ハロロドプシンのイオン能動輸送に重要と考えられる alternating access 機構を検討するため、ab initio QM/MM ハイブリッド法である QM/MM RWFE-SCF 自由エネルギー最適化に LRPF 法を組み合わせた手法の検討を行った。その結果、alternating access 構造変化前の L 中間状態の構造モデルを得た。また、L 中間状態以降では細胞質側が開くと考えられるので、その動きを促進するバイアス力を不可した QM/MM RWFE-SCF 計算を行った。 2.GtACR1 光感受性アニオンチャネルの光活性化状態のモデリング GtACR1 の光異性化後のタンパク質構造変化を QM/MM RWFE-SCF 法、及び MD 法により解析した。その結果、水分子鎖が膜間で繋がった開状態の構造モデルを得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハロロドプシンに関しては、alternating access 構造変化前の中間状態のモデリングに関して有望なモデルが得られた。これにより、alternating access 構造変化の LRPF シミュレーションを開始することが出来た。 また、GtACR1 に関しても、チャネル開構造の構造モデルが得られた。チャネル開構造モデルは、これまでにいずれのチャネルロドプシンに対しても得られていないため、非常に顕著な成果であると考えられる。 一方、QM/MM RWFE-SCF 自由エネルギー最適化法を用いたデータ同化手法の開発は、人的リソースの問題により若干進展が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
ハロロドプシンに関しては、QM/MM RWFE-SCF 法と LRPF 法による alternating access 構造変化のシミュレーションを継続し、イオンポンプに必須となるスイッチングの分子機構を明らかにする。 GtACR1 に関しては、得られたチャネル開構造のモデルに基づき、チャネル内の塩素イオンの配置やカルボン酸側鎖のプロトン化状態を変更したモデルに関しても QM/MM RWFE-SCF 自由エネルギー構造最適化、及び MD シミュレーションを行い検討することにより、イオン透過の分子機構を明らかにする。 また、QM/MM RWFE-SCF 法によるデータ同化法の開発に関しては、方法論の理論を完成し、必要な MD シミュレーション及び QM/MM RWFE-SCF シミュレーションを実施する。 更に、本領域における共同研究として、発光タンパク質であるイクオリンの活性化に関する研究を行う。カルシウムイオン結合前の始状態に対して QM/MM RWFE-SCF 計算を行うことにより、セレンテラジン基質分子のプロトン化状態の検討を行う。更に、カルシウムイオン結合による発光状態への活性化機構を QM/MM RWFE-SCF 及び LRPF 法により明らかにする。
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