ヘムタンパク質の反応中間体について、X線自由電子レーザーを用いてX線結晶回折データを取得して無損傷構造の精密解析を行うことで、従来の結晶解析や分光学法だけでは明らかにすることができなかった配位子の性質やプロトン化状態などの化学的性質を解明することを目指した。ヘム酵素であるペルオキシダーゼでは、Fe(IV)を含む酸化活性種として2種類の中間体を経由することが長年知られてきたが、分光測定でのレーザーやX線損傷に敏感なことが解析を困難にしていた。本課題では大豆由来アスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)および酵母シトクロムcペルオキシダーゼ(CcP)についての反応中間体の無損傷構造解析を英国の研究グループと共同で行った。 前年度までにAPXおよびCcPの酵素の結晶をいずれもCompound IIという2つ目の反応中間状態で凍結トラップする方法を確立し、SACLAで固定ターゲット(SF-ROX)法を用いた無損傷構造解析データの収集を行ってきた。本年度はAPX結晶については分解能1.5 Aでの精密化を完了した。この分解能では水素の位置情報を直接実験的に得ることができなかったが、Fe-O結合の距離を高い精度で決定し、水素原子が結合したFe(IV)-OHの状態であると結論付けた。 CcP結晶については、分解能1.06 Aの無損傷X線回折データデータセットを用いた構造解析によって活性部位を構成する各アミノ酸の水素原子の位置についても決定し、水素結合のネットワークを明らかにした。また、Fe-O結合の結合距離を高い精度で決定し、プロトン化していないFe(IV)=O状態であると結論付けた。CcPについてはX線自由電子レーザーによるタンパク質分子の構造としては世界最高分解能での解析であり、当初の目的を達成できた。これらの成果を国際誌Angew. Chem. Int. Ed.に報告した。
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