研究領域 | 身体-脳の機能不全を克服する潜在的適応力のシステム論的理解 |
研究課題/領域番号 |
20H05459
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野崎 大地 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 教授 (70360683)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 機能的筋電気刺激 / PID制御 / 立位姿勢制御 |
研究実績の概要 |
本研究では、腕運動制御・学習動態の解明に大きく寄与してきた、身体ダイナミクスを変化させたときの適応過程を調べるという強力な方法論を立位姿勢制御系研究に適用することを試みる。前脛骨筋への筋電気刺激強度を身体重心位置・速度に応じて調節し、足関節トルクを操作することにより擬似的に身体ダイナミクスを変化させる実験システムを構築すること、また、このシステムによって身体ダイナミクスを変化させたときの立位姿勢制御系の適応動態を明らかにすることを本研究の目的とする。
この目的を達成するため以下2つの研究項目を実施した。 1. 立位姿勢時の身体ダイナミクスを操作するシステムの開発:レーザー変位計によって静止立位中の微小な重心動揺を計測し、その位置や速度情報に応じて前脛骨筋への筋電気刺激強度をリアルタイムで変化させる閉ループ筋電気刺激システムを構築した。身体ダイナミクスを正確に操作するために、様々な周波数で正弦波状に電気刺激強度を変化させたときに発生する足関節トルクを計測し、筋電気刺激と足関節トルクの間の伝達関数・逆伝達関数を同定した。実際の重心動揺から作成したテスト足関節トルクパターンを逆伝達関数に入力することによって求めた筋電気刺激を実際に前脛骨筋に加え、発生した足関節トルクを実測したところ、本筋電気刺激システムによってほぼ設定通りの足関節トルクが作り出せることを確認した。
2. 立位姿勢制御系の適応動態の解明:上記システムを用いて身体ダイナミクスを様々に変化させた状態で静止立位を10分間維持する予備的実験課題を実施した。立位姿勢制御系の適応動態を、重心動揺、足圧中心動揺量や筋活動量、1分ごとに実施する前方へのステップ外乱試行(視覚、前庭、筋電気刺激)に対する応答パターンなどを調べることにより検討したところ、閉ループ筋電気刺激によって変更したダイナミクス特異的な反応が生じることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「立位姿勢時の身体ダイナミクスを操作するシステムの開発」については、リアルタイムでデータを取り込み、そのまま筋電気刺激強度をほぼ遅延なく変調させられること、また必要な足関節トルク変化パターンから筋電気刺激強度パターンを求める逆伝達関数を導出する手続きを確立することができたなど、いくつかの困難な課題を解決し、設定通りの動作をする閉ループ筋電気刺激システムを構築できた。 また、「立位姿勢制御系の適応動態の解明」においてもコロナ禍で外部からの被験者を計測できない制約の中での研究室内部被験者を対象にしたものではあるが、上記の筋電気刺激システムを用いて、いくつかの異なる新奇ダイナミクスに被験者の直立姿勢を適応させる予備的実験まで実施することができた。 その一方で、新学術領域研究「超適応」の領域会議で、筋疲労の問題が指摘された。この逆伝達関数が10分間にも及ぶ筋電気刺激の後でも変化しないのかどうかという問題の検証については次年度の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は以下の研究項目に取り組む。 1. 閉ループ筋電気刺激システムの改良:現在のシステムでは筋電気刺激によって筋出力が低下するなどの筋疲労の問題を十分考慮できていない。筋電気刺激時間によって筋電気刺激強度と足関節トルクの間の伝達関数が変化しないのかどうかを検証し、もし変化することが確認された場合はそれを解決するための方策を確立する。
2. 立位姿勢制御系の適応動態の解明:前年度に実施した予備実験の結果に基づき、重心位置依存ゲイン、重心速度依存ゲインなどの量を適切に設定した上で本実験を実施する。換気を良くする、マスクの着用、必要に応じたフェイスガードの着用、機器の消毒などコロナウイルス感染対策は十分に行ったうえで外部からの被験者を募って実施する。
3. 閉ループ前庭感覚電流刺激システムの開発:リアルタイムで重心位置を計測し、それに応じて変化する外乱を加えるという本研究の手法を前庭感覚刺激にも応用する。両耳後部に配置した電極により前後の重心動揺に応じて変化する電流を流すことにより、左右の重心動揺が発生するという状況を作りだす。この新奇な環境にヒトの直立姿勢制御系がどのように適応するかを明らかにする。
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