研究領域 | 身体-脳の機能不全を克服する潜在的適応力のシステム論的理解 |
研究課題/領域番号 |
20H05467
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
小林 祐一 静岡大学, 工学部, 准教授 (60373304)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 運動学習 / 部分ダイナミクス推定 / 関数マッチング / 格子状マップ生成 |
研究実績の概要 |
本研究では,人の運動学習過程における部分的な制御知識の再利用過程を説明可能なモデルを構築することを目指し,対象とする運動制御系の部分的なダイナミクスの推定にもとづいた学習法の構築ならびにそれを用いた部分ダイナミクス間の変換推定法の構築を行った.二つの異なるスケールをもった腕の制御器を依存関係ネットワーク推定にもとづいた自動生成法により獲得し,その過程で得られた部分ダイナミクス(Jacobian)の間のスケール変化を推定することで,片側の腕の制御器に部分的な欠損が生じた際にもう一方の腕の制御器の情報を転用した制御器の再構成が可能であることを示した.
また,二つの部分ダイナミクスの間の変換を推定するための基盤として,多次元格子状の変換推定マップの構築を行った.格子上の各点に部分ダイナミクスに相当する関数値を設定し,二つの異なる関数間のマッチングを,格子点上に定義されるエネルギーを最小化するプロセスにより表現した.このエネルギーはマッチングを評価する項とマップの均一性を評価する正則化項からなり,可能な限り滑らかで変化の少ないマップによる変換を探索する.既知の関数パターンのマッチング例題において,スケール変化および平行移動を与えた二つの関数パターンにおいて,提案する格子状変換推定マップのエネルギー最小化アルゴリズムが適切に機能し,関数間のマッチングを行うことができることが確認された.
加えて,非線形ダイナミクスを有する感覚-運動系において,運動中に観測された感覚データから適切なマッピングを生成する手法の開発と実装・検証を行った.非ホロノミック拘束を受ける2輪型移動ロボットシステムのシミュレーションおよび実機システムを構成し,目標値に到達する制御器のための変数変換を獲得できることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
提案する運動学習法を構成する主たる要素である「格子状の変換推定マップ」について,関数のマッチング方法,正則化の項の構成など,基盤にあたる部分を実装し,その機能性を検証することができた.また,二つの異なるアームシステムにおいて,部分ダイナミクスに違いがある場合を設定し,その違いを考慮して転用する,という本研究の核となるアイディアについて,シミュレーション上で表現しその利用方法をデモンストレーションすることができた.今後の研究の進展により,格子状の変換推定マップの機能をより拡充することで当初計画している「部分ダイナミクスの再利用を行う運動学習モデルの開発の検証」を行うことが期待できると考えているため,概ね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後の展望として,(1)格子状の写像変換推定マップの性能向上と,(2)同変換推定マップを組み込んだ部分ダイナミクス再利用学習の実装・評価の2点をあげる. (1)については,現在のマップ構成法が勾配法によりエネルギーを最小化するアプローチであるため,局所解に陥るという問題を有している.より大きな違いを含んだ写像同士の変換推定を可能にするためには,局所的な最適化だけでなく,より広範囲にマップ形状の探索を行う方法に拡張する必要がある.これまでに実装してきた勾配法をベースにした方法だけでなく,多点探索を可能にするアルゴリズムの導入を検討することでこの問題に対処する. (2)のダイナミクス再利用の実装・評価については,2020年度に得られている枠組みを拡充することで行うことができると考えている.
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