ヒト立位姿勢は、ふくらはぎ抗重力筋の持続的活動と伸張反射に因る足関節の高剛性によって安定化されると考えられてきた。我々はこの定説と対立する間欠制御仮説を提案している。そこで、本研究では、立位姿勢の運動学・動力学的計測に加え、姿勢の神経制御に関わる脳活動(脳波)を計測し、立位姿勢の間欠制御仮説の脳内メカニズムの解明を目指した。初年度(昨年度)は、インパルス的床面移動外乱に対する立位姿勢応答とそれに伴う脳波・筋電図応答を計測し、外乱で乱された姿勢の回復が完了する前に始まり、姿勢回復過程に渡り長時間(約3秒間)持続する高β帯域リバウンド(β-ERS)とθ帯域の脱同調(θ-ERD)を世界に先駆けて発見した。さらに、これらの同期・脱同期活動が発生する時間帯が、姿勢の間欠的フィードバック制御器のスイッチがオフになる時間帯と一致することを示した。これらの脳活動は、基本的には身体の受動的機械力学的特性を利用して姿勢の安定化を謀りつつも、必要に応じて適切なタイミングで能動的介入を行えるように、姿勢状態の能動的モニタリングしている脳内状態を反映していると考えられる。本年度は、この外乱応答に対する新規脳活動の有無を、パーキンソン患者を研究対象者として検証する予定であったが、新型コロナウイルス感染症拡大のため、実施が困難となった。そのため、それに替り、引き続き若年健常者を対象として、外乱の無い静止立位姿勢時の脳活動を計測し、静止立位時姿勢動揺に含まれる複数の微小転倒に注目し、そこから姿勢が直立平衡姿勢に回復する微小回復過程においても、外乱からの回復過程と同様にβ-ERSとθ-ERDが出現するかを検討した。現在まだ予備的実験結果しかない段階ではあるが、両者の応答が存在する可能性が示唆することができた。
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