公募研究
老化や病態による運動機能低下に対する適応メカニズムの解明のためには、運動前野、および同領域と結合している前頭葉、頭頂葉を含めた神経ネットワークの理解が重要である。難治部分てんかんの外科治療には、てんかん焦点の切除と同時に焦点周囲の脳機能の温存が大切であり、病態による機能可塑性、脳機能の適応メカニズムを加味した包括的な脳機能マッピングが必要となる。てんかん焦点が機能野近傍に位置する場合や非侵襲的検索では焦点の同定が難しい場合、硬膜下電極の慢性留置による侵襲的術前評価を施行する。硬膜下電極を用いた臨床脳機能マッピングには、課題遂行中の脳活動計測(事象関連電位や高ガンマ活動計測)と高頻度皮質電気刺激(Electrical cortical stimulation: ECS)が用いられるが、正確な切除後の脳機能障害、代償による回復の予測は難しい。本新学術「超適応」の基盤となった新学術「身体性システム」に公募班(2期, 4年)として参加し、てんかん外科の頭蓋内電極を用いた術前精査に携わる立場から道具使用、運動主体感に関わる腹側前頭葉、頭頂葉の神経基盤と代償機転の解明に携わってきた。本新学術領域においては運動機能の適応メカニズムの解明のため、前頭前野からのtop down、頭頂葉からのbottom upの情報を統合する運動前野のネットワーク的理解が必要と考え、高頻度皮質電気刺激や皮質切除術などの介入に対するネットワークレベルの超適応メカニズムの解明を目指した。
2: おおむね順調に進展している
留置電極(100電極超/患者)から、自発単純運動(顔・手・肩・足)そして道具パントマイム・到達把持運動・指巧緻運動・Go/NoGo課題といった高次運動課題中の広周波数帯域の皮質脳律動を探索し、電極の解剖情報とともにローカライザとして参照した。NoGo課題においては課題特異的な運動関連準備電位(Event-related potential: ERP)が内側前頭葉、背側運動前野を中心に記録された。次に、全電極を通じて網羅的に低頻度皮質電気刺激を与え、皮質間結合を介して記録される皮質・皮質間誘発電位(CCEP)を実効的結合の指標として、運動前野の包括的な電気生理的コネクトームを個人とグループレベルで作成した。下前頭回刺激時のCCEPでは結合性の勾配があり、吻側のpars orbitalisは側頭葉前方や角回に、尾側のpars opercularisは側頭葉後方や縁上回に分布することを示した。腹側運動前野はECSで陰性運動反応(舌・手・足の反復運動が停止)を示すことが知られている(陰性運動野)が、陰性運動野では他の一次運動感覚野や言語野と比較して有意にoutboundの結合が多いことを示した。またこれらはてんかんを有する患者群における結合性であるため、てんかんによりどのように脳内ネットワークがあるかを検討し、てんかん原性領域では結合性が強まり、それ以外の領域では弱まる傾向であることを示した。今後個人のコネクトームをグループデータと比較し、てんかん病態や運動ストラテジー(例.Go/NoGo課題の戦術など)によるコネクトームの変容を明らかにする。また、CCEPの第一人者として、術中CCEP機能マッピングについて総説や教科書を執筆した 。
令和3年度も引き続き、上記研究計画を推進する。新型コロナ禍で患者リクルートが困難であるが、前方視的に5名の動員を予定する。既に、てんかんネットワークや脳機能ネットワーク同定のために網羅的な実効的結合(CCEP)測定を行い、前述の予備的研究のために運動関連皮質律動測定を行った20症例を後方視的に動員し、グループ解析を行い、ネットワーク解析・介入に対する超適応の解明を目指す。理論班との共同研究によるネットワーク解析手法や超適応機構の数理モデル化手法の構築に貢献できる。臨床システム神経科学の観点からの知見は、工学的知見によるモデル構築・検証やリハビリ介入によるネットワークの変容の重要な参照データとして「超適応」メカニズムの体系化へ貢献が期待される
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 3件、 招待講演 7件) 図書 (2件) 備考 (1件)
Clinical Neurophysiology
巻: 132 ページ: 1033-1040
10.1016/j.clinph.2020.12.022
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10.1016/j.clinph.2020.03.042
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10.1016/j.clinph.2020.04.167
https://www.med.kobe-u.ac.jp/sinkei/research/index.html