日常生活で、目の前の対象物に手を伸ばしてつかむ時、我々は無意識に左右どちらかの手を選んでいる。身体空間の右にある対象物に対しては右手を、左にある対象物には左手を伸ばすが、中心付近にある対象物に対しては、その時々で右を使ったり左を使ったりする。この選択均衡線は、身体の中心から少し非利き手側によったところにあるが、脳卒中によって体の片側が麻痺した場合には、麻痺した手を使わなくなるため、この選択均衡線が体の中心から大きく麻痺側にずれてしまう。非侵襲的な介入によって選択均衡線を非麻痺側に移動し、日常生活において麻痺側をより多く選択させることができれば、リハビリの効果が維持できる。そこで、経皮的な刺激によって選択均衡線を移動させることができるかについて健常被験者で検証を行った。 左右の手関節に電気刺激を行った(正中神経刺激)。実験参加者は、左右どちらかの手をつかい、パソコン画面上のランダムな位置に出現するターゲットに、手をすばやく到達させる課題をおこなった。手関節への電気刺激は右手のみ、左手のみ、両手、刺激なしの4条件で、ターゲットが提示されると同時、もしくは、直前に付加された。その結果、右手首を刺激した場合は、刺激なしや両手刺激の場合に比べてより右手を選択する確率が有意に上昇し、逆に、左手首を刺激した場合は、刺激なしや両手刺激の場合に比べて、左手を選択する確率が有意に上昇していることが判明した。また、刺激のタイミングについては、ターゲット提示時刻に近づくにつれて選択率への影響が大きくなることが示唆された。 本研究の結果は、選択を開始する前の末梢からの入力がその後の選択意思決定に影響を与えることを示唆しており、意思決定のメカニズムに示唆を与えるものである。また、末梢への電気刺激という比較的簡便な手法で意思決定に介入できることから、自宅でのリハビリにおいて活用しうる可能性がある。
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