以前確立した脳卒中の好発部位であり運動出力に密接に関係する皮質下の内包後脚に脳卒中を有する脳卒中マカクサルモデルを活用し、機能的近赤外分光分析法(fNIRS : functional near-infrared spectroscopy)を用いて脳卒中前後の運動皮質の活動を計測した。健常時は把握動作の遂行に伴って第一次運動野の手領域の活動上昇が見られたのに対して、運動機能回復時には運動前野腹側部の活動上昇が見られた。内包後脚の梗塞が小さい個体では梗塞を作製した半球と同側の運動前野腹側部の活動が上昇したのに対し、梗塞が大きい個体では対側半球運動前野腹側部の活動上昇が見られた。また活動上昇か見られた領域ではオキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンの対称性が崩れオキシヘモグロビンの立ち上がりが早くなるなど健常脳では見られないようなfNIRSシグナルの特徴が観察された。fNIRSは核磁気共鳴画像装置(MRI)と比べて安価であり身体を拘束せず運動中の脳活動計測が可能であるためリハビリ中の脳活動計測に適している。一方、その計測原理から脳表面の活動のみしか計測できないというデメリットがある。この問題を解決するためDiffuse optical tomography (DOT)をfNIRS計測データに適用し、血流動態変化の3次元画像推定を試みた。随意運動遂行中の健常マカクサルにおいて、DOTによる解析から脳溝の中を含む運動関連大脳皮質領野の活動が推定され、その時間及び空間的変化はこれまでに知られている生理学的知見とも一致していた。本手法による解析をfNIRSから得られたデータに用いることで、脳卒中後の機能回復過程で生じる脳活動変化をより詳細に同定できると考えられる。
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