本研究では、生体内における生命半金属セレンの輸送機構に関わる血漿タンパク質セレノプロテインP(SeP)の発現制御およびSePを介したダイナミックなセレン受け渡し機構を分子レベルで解明することを目的としている。本機構に関わる受容体や細胞内小胞輸送、セレン受け渡しに関連する分子の同定を生化学・分子生物学・細胞生物学的手法・プロテオーム解析・ICP-MS解析を駆使して実施する。 SePの発現制御機構に関する研究から、SePの翻訳を抑制する新規lncRNAを同定した。SePの翻訳には、mRNAの3'非翻訳領域に存在するセレノシステイン挿入配列SECISが必須な役割をしている。SePのゲノム配列の解析から、我々はSePのSECIS領域と相補的な配列を有する遺伝子ccdc152を発見した。ccdc152は、RNAとして作用し、SeP mRNAと相互作用し、翻訳に必要なSBP2やリボソームの結合を抑制することでSePの翻訳を抑制することが分かった。lncRNAとして作用する点と、SePの翻訳を抑制することから、lncRNA-Inhibito of Selenoprotein P Translation (L-IST)と命名した。さらに、SePを増加する化合物の探索から、糖尿病予防作用が知られるエピガロカテキンガレートEGCgが同定された。また、SePのセレン輸送経路に関する研究では、ApoER2の多様なアイソフォームにおけるO-linked Sugarドメインの寄与を明らかにした。さらに、SePのセレン輸送経路において、これまでライソゾーム依存的な分解経路が知られていたが、ライソゾームを経ずにセレンを受け渡しする新たな機構が見いだされた。
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