研究領域 | 「生命金属科学」分野の創成による生体内金属動態の統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
20H05493
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
外山 喬士 東北大学, 薬学研究科, 助教 (50720918)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | セレノプロテインP / メチル水銀 / 共有結合 / セレン / GPx / 活性酸素種 |
研究実績の概要 |
有害金属のメチル水銀は親電子性を有しており、生体内では求核性を示すシステインのSH基やセレノシステインのSeH基と特異的に共有結合 (Se-水銀化) することで毒性を発揮する。本研究では、メチル水銀とセレノプロテインP (SeP) の結合様式と生体影響の解明を試みている。 先ず、アミノ酸レベルでmaleimideの反応性を検討するため、システインまたはセレノシステインをアミノ基で固定したアガロースビーズ (Cys-ABまたはSec-AB) を独自に合成し、マレイミドがSecに選択的に結合するpH条件を検討した。その後、ヒト血漿よりSePを精製し、Biotin-PEAC5-Maleimide (BPM) を反応させるとpH3でもその結合が認められ、ヒト血漿をpH3でBPMと反応させても、SeP 中のSeH基選択的なラベル化が可能であった。そこで我々は、この新技術を “acidic-BPML; aBPML法” と名付けた。最終的に、メチル水銀と反応させた精製SePおよび血漿中SePのSe-水銀化はaBPML法で検出することができた。 Se-水銀化したSePのメチル水銀は、SH基による求核置換反応は非効率的であることがSec-ABを用いた検討で明らかとなった。 また、神経細胞を過酸化水素で処理したところ、SeP添加でその毒性が顕著に抑制されたものの、MeHg-SePではその作用が有意に低下した。以上より、SePのSe-水銀化は細胞内のセレン利用を阻害することで、神経細胞における酸化ストレス脆弱性に関与することが新たに示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
aBPMLアッセイを確立し、SePのSe-水銀化を捉えることに成功したとともに、SePへのメチル水銀の集積機構まで明らかにすることができた。これは、研究計画には無かった、Cys-ABとSec-ABの合成に成功したことの寄与が大きい。また、Se-水銀化したSePを細胞に添加することで、SeP本来のセレン供給能を阻害することまで明らかにしており、それだけでなく、次年度に実施する予定のSeP KOマウスを用いた動物実験まで前倒しで実施しており、先行結果が得られている。 以上より、本研究は当初の計画を大幅に超えて順調に進展しており、次年度中にマウス個体レベルでの検討を網羅し、論文投稿することも可能であろう。
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今後の研究の推進方策 |
SeP KOマウスを用いて、今年度明らかとなったSePのSe-水銀化の分子機構とその生体影響を個体レベルで検討する。具体的には、SeP KOマウスにメチル水銀を投与し、脳内GPxが低下した条件で、BCCAOを実施し、虚血再灌流に伴う酸化ストレスによる神経細胞死が抑制されうるか検討する。 またマウス血漿のaBPMLを実施し、個体でのSePのSe-水銀化を検討する予定である。
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