昨年度までに我々は、メチル水銀によるSe-水銀化を検出する新技術 acidic-BPML (aBPML) を開発し、①メチル水銀が血漿中のSePをSe-水銀化することを明らかにしてきた。また、SePはセレンを各組織へ供給する機能があるが、②Se-水銀化したSePでは、セレン供給活性が著しく低下することを見出した。通常、SePによって細胞にセレンが供給された場合、グルタチオンペルオキシダーゼ (GPx) といった抗酸化酵素が誘導されることで酸化ストレスに対して耐性を獲得するのだが、③Se-水銀化されたSePではGPx発現低下に伴って酸化ストレス防御能が減少することが明らかとなった。しかし、SePのSe-水銀化がどのようにセレン利用を阻害しているのか、および上記のような生命金属を利用したレドックスシステムの撹乱がin vivoでも起こるのか不明である。そこで本年度では上記の解明を目指した。 まず、培養細胞を用いて、SePの取り込みと分解に関わる経路にSe-水銀化SePが与える影響を検討した。その結果、Se-水銀化したSePのセレン供給活性阻害は、リソソームでの分解後、セレノシステインリアーゼによる無機セレンへの代謝阻害に起因することが初めて明らかとなった。また、メチル水銀によるセレン供給阻害は、マウスへメチル水銀を投与することでその脳内でも認められることが示された。さらに、超硫黄ドナーがSe-水銀化を解除する活性を示し、メチル水銀で低下したGPxの誘導を回復させた。以上より、Se-水銀化によるセレン利用の阻害は超硫黄によって制御される可能性が新たに明らかとなった
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