現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生体内の電子移動(ET)反応は、タンパク質中を電子が長距離トンネル移動することで起こっていることが分かっている。しかし、電子トンネル移動を媒介するタンパク質環境の役割については、未だ明らかになっていない点が多い。 我々は、フラグメント分子軌道(FMO)法を用いてタンパク質中のET経路を高精度かつ低計算コストで解析する手法の開発を行ってきた。この手法では、FMO法のフラグメント電子状態計算の結果から、全系のハミルトニアンや分子軌道関数を計算するFMO線形結合(FMO-LCMO)法を基に、電子トンネル行列要素(TDA)計算やET経路解析が実行される。ここでは以下で説明する簡単なモデル架橋分子を採用し、全系をDFTで解いて一般化Mulliken-Hush(GHM)法で求めた場合のKohn-Sham軌道によるTDA計算の精度検証と、FMO-DFTに基づくブリッジグリーン関数(BGF)、および採用する分子軌道を制限するLCVMO法を用いた場合の性能評価を行った。 FMOを用いたET計算の性能の妥当性を、以下の3種類の異なるタンパク質-ETモデル分子について実証した。(1) α-helixとβ-strand構造のポリアラニンリンカーによって共有結合で架橋された2つのトリプトファン間の正孔輸送(モデル1)、(2) α-helixとβ-strand構造のポリアラニンリンカーによって共有結合で架橋された2つのプラストキノン間の電子輸送(モデル2)。 また、金属タンパク質のモデル系として(3) Ru修飾アズリン誘導体のモデルとして、ポリグリシンリンカーによって共有結合的に架橋されたルテニウム(Ru)と銅(Cu)錯体間の正孔移動のリンカー伸長依存性(モデル3)を検討した。(H. Nishioka-Kitoh, Y. Shigeta, K. Ando, JCP 2020, 153, 104104)
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