研究領域 | 「生命金属科学」分野の創成による生体内金属動態の統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
20H05503
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
菅波 孝祥 名古屋大学, 環境医学研究所, 教授 (50343752)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 非アルコール性脂肪肝炎 / マクロファージ / 慢性炎症 |
研究実績の概要 |
研究代表者は既に、細胞死に陥った肝細胞をクッパー細胞が取り囲み、貪食・処理する組織像(CLS: crown-like structure)を同定し、このCLSを起点として肝線維化が生じることを報告した。従来、NASHにおける鉄過剰の意義が示唆されているが、主に肝細胞における鉄代謝変容が研究されてきた。本研究では、クッパー細胞において鉄が過剰に蓄積する細胞内動態と鉄過剰によるクッパー細胞の機能変容を検討し、新たな肝線維化機序の解明を目指す。本年度は、以下の2点に関して検討を行った。 1)鉄過剰によるクッパー細胞機能変容の分子メカニズムに関する検討;本項目では、鉄過剰がクッパー細胞の機能変容を惹起する分子メカニズムを検討した。正常肝、脂肪肝、NASH肝から鉄を多く含有するFe(hi)クッパー細胞を単離すると、全マクロファージのわずか2%程度を占めるFe(hi)クッパー細胞が炎症線維化促進形質を獲得することを見出した。トランスクリプトーム解析により、Fe(hi)クッパー細胞においてリソソームストレスが亢進すること、リソソームストレス応答性MiT/TFE転写因子が炎症線維化促進形質の獲得に重要な役割を果たすことを見出した。実際、TFE3は、NASH肝においてCLSを構成するクッパー細胞に限局して活性化し、ヒトNASHにおいても同様の所見を得た。 2)クッパー細胞における鉄代謝動態の変容メカニズムに関する検討;本項目では、Fe(hi)マクロファージにおける鉄代謝変容の分子メカニズムを検討した。具体的には、鉄過剰によりリソソーム障害が生じ、これがMiT/TFE転写因子の活性化に繋がった。さらに、マクロファージ活性化マーカーのCD11c等がTFE3, TFEBの標的遺伝子であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、脂肪肝からNASH発症過程におけるクッパー細胞の鉄代謝変容に着目して肝線維化の分子機構を検討するため、種々の動物モデルを必要とする。2020年度は新型コロナ感染症の感染拡大により、当初予定していたマウスの繁殖・実験に支障を来したが、3ヶ月間の期間延長により、最終的には当初予定していた通りの研究を遂行することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、クッパー細胞において鉄が過剰に蓄積する細胞内動態と鉄過剰によるクッパー細胞の機能変容を検討し、新たな肝線維化機序の解明を目指す。本年度に引き続き、以下の3点に関して検討を行う。 1)様々なNASHモデルやヒトNASHにおける検証;本項目では、昨年度までに見出したクッパー細胞におけるリソソームストレスの亢進を様々なNASHモデルおよびヒトNASHにおいて検証する。これまで、研究代表者が独自に確立した遺伝性肥満メラノコルチン4型欠損マウスを用いたNASHモデルを使用してきたが、ヒトNASHでは必ずしも肥満を合併しない例もあり、多様な病型が想定される。そこで、メチオニン・コリン欠乏食負荷モデルやウェスタンダイエット長期負荷モデルなどを用いて、これまでのデータを検証する。 2)鉄が過剰蓄積するメカニズムの検討;本項目では、何故一部のクッパー細胞にのみ鉄が過剰に蓄積するかを検討する。Fe(hi)クッパー細胞における鉄代謝関連遺伝子の発現プロフィールを確認するとともに、Fe(hi)クッパー細胞が死細胞貪食に働くことを踏まえて、死細胞貪食の役割を検討する。 3)炎症・線維化促進形質を獲得するメカニズムの検討;本項目では、脂肪肝および正常肝からクッパー細胞を調製し、トランスクリプトーム解析を行うことで、局所環境がクッパー細胞に及ぼす影響を明らかにする。Fe(hi)クッパー細胞は、正常肝にも1%程度存在するが、炎症線維化促進形質は有していない。そこで、鉄代謝以外の刺激が関与すると想定され、背景肝の局所環境がクッパー細胞に及ぼす影響を検討する。
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