本研究ではリソソームによる生命金属動態の制御について、特にリソソームから放出された亜鉛がシグナルとして働く仕組みを明らかにすることを目標としていた。その中でも本年度の研究では、PRLによる酸性環境への適応にリソソームから亜鉛を排出する分子TRPML1およびZIP3が必須であると遺伝学的スクリーニングから明らかにされたことを踏まえ、実際にPRL高発現により亜鉛がリソソームから放出されているのか、またそれがPRL依存的なlysosomal exocytosisの活性化に重要であるのかを確認した。亜鉛感受性の蛍光蛋白質peZinCh-2を用いてのイメージング解析を行ったところ、想定通りPRL高発現細胞でシグナルが増加しており、細胞内亜鉛レベルの上昇が確認された。また亜鉛のキレーターTPENの培地中への添加により、PRL依存的なlysosomal exocytosis、そして酸性適応が抑制されていた。これらの実験結果より、PRL高発現によるTRPML1やZIP3を介したリソソームからの亜鉛放出を介してlysosomal exocytosisと酸性適応が惹起されていることが判明した。さらに、放出された亜鉛のターゲットとなる蛋白質を同定すべく、領域内の田村博士らが開発した亜鉛近傍蛋白質ラベル化プローブAIZin-2を用いた実験も行っている。このプローブを添加した細胞の溶解液をウェスタンブロットで解析したところ、PRL高発現細胞のサンプルで特異的に検出される蛋白質を複数見つけており、質量分析により同定にも成功している。これらの蛋白質の中にリソソームから放出された亜鉛に応答し、lysosomal exocytosisを活性化させた分子が含まれている可能性が想起され、今後その解析を進めてゆくことでその仕組みが明らかになると期待される。
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