マンガンは脳内でも線条体によく蓄積することが知られており、マンガンによるパーキンソン病様症状と関連すると考えられている。そこで、雄性および雌性ICRマウスの線条体を摘出し、LC-MSによりエストラジオールを定量した。とても興味深いことに、線条体エストラジオール量はオスにおいてメスの3倍程度多かった。精巣を除去したオスにおいて、線条体エストラジオール量は1/20以下まで低下したことから、線条体エストラジオールの由来はテストステロンであると考えられ、脳内でテストステロンがエストラジオールに変換されていることが示唆された。ICRマウスに塩化マンガンを10週間飲水投与した。線条体におけるマンガン濃度をICP-MSにより測定したところ、vehicle群と比較してオス、メス共に線条体マンガン濃度が増加しており、マンガンの線条体への蓄積が観察された。オスとメスのマンガン蓄積量を比較すると、オスの線条体マンガン蓄積量はメスと比較して有意に高かった。マンガン摂取による行動への影響を調べるため、シリンダー試験およびロータロッド試験を行った。マンガン投与2週間後において、シリンダー試験によりオスでのみ多動性が観察された。また、投与10週間後においてロータロッド試験を行ったところ、ロッド上の滞在時間がオスにおいて有意に低下した。以上の結果より、線条体マンガン量と線条体エストラジオール量、さらに協調運動障害は正の相関を示すことが明らかとなった。 12種類のマンガン輸送体の発現変化を調べたところ、L型カルシウムチャネルとして知られているCaV1.2の発現がメスで優位に低く、またオスにおいてもCYP19A阻害薬のレトロゾール投与により大きく減少することが明らかとなった。従って、線条体において、エストロゲンがCaV1.2を正に調節することが示唆された。
|