研究領域 | 「生命金属科学」分野の創成による生体内金属動態の統合的研究 |
研究課題/領域番号 |
20H05512
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
西田 基宏 九州大学, 薬学研究院, 教授 (90342641)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | TRPCチャネル / 亜鉛 / 圧受容反射 / 心臓 / 交感神経系 |
研究実績の概要 |
交感神経系を介する心筋の収縮力増加(陽性変力作用)は、全身の血液循環恒常性維持に重要であり、その破綻は心不全の主たる臨床転帰となる。交感神経終末から放出されるノルアドレナリン(NA)は、心臓に多く発現するβアドレナリン受容体(βAR)を介して心機能を亢進する。しかし、なぜNA応答性の高いαARではなく、NA応答性の低いβARによって心機能が調節されるかは不明であった。我々は、受容体作動性カチオンチャネルtransient receptor potential canonical (TRPC) 6がαAR刺激によって活性されてZn2+流入が起こり、このことがβARのNA応答性を増強させ、マウス心臓の陽性変力作用を正に制御することを見出した。βARを介する心臓の陽性変力作用は、TRPC6欠損マウスで強く抑制された。TRPC6欠損した成熟マウス心臓の単離心室筋細胞においても、βAR刺激による細胞内Ca2+濃度上昇と筋収縮増強効果が抑制された。NAの24時間前処置により、βAR刺激によるcAMP産生が有意に増大し、この増強作用はαAR阻害薬、TRPC6のノックダウン、Zn2+キレート剤処置によって抑制された。 次に、心臓の線維化を仲介するZn2+透過型TRPC6チャネルおよびその類縁サブタイプTRPC3チャネルが、他の組織でも線維化誘導を仲介するか明らかにするため、非アルコール性肝炎(NASH)モデルをTRPC欠損マウスと掛け合わせて肝形態機能評価を行った。その結果、TRPC3, TRPC6それぞれを欠損させたマウスでは、野生型と同様にNASH症状が観察され、有意な抑制効果は認められなかった。この結果から、肝臓の線維化において、TRPC3/6チャネルの関与は小さいことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度、計画していた研究はほぼすべて終了し、現在、論文執筆中の段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
TRPC6と他のTRPCチャネルとの相同性解析から推測されたZn2+透過性に必要なポア領域中のアミノ酸2か所(NYN)をTRPC3型に置換したTRPC6変異体(KYD)をノックインさせたマウスと安定発現させた細胞株を作出した。また、αARとTRPC6、βARをつなぐリンカーペプチドも合成し、これが心筋細胞の収縮力増強に働くことを確認している。今後は、本ペプチドとTRPC6変異体ノックインマウスを用いて、心臓以外の組織における普遍的作用を明らかにしていく。
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