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2020 年度 実績報告書

金属イオンの水和ダイナミクスとタンパク質配位シミュレーション

公募研究

研究領域「生命金属科学」分野の創成による生体内金属動態の統合的研究
研究課題/領域番号 20H05518
研究機関慶應義塾大学

研究代表者

渡邉 宙志  慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特任講師 (20767199)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2022-03-31
キーワード分子シミュレーション / 量子化学計算 / 分子動力学計算 / 金属イオン / 溶媒和効果
研究実績の概要

熱力学サイクルを用いて、間接的に結合自由エネルギーを算出する際には、計算コストの大きい溶液中での計算を避けて真空中での計算を介することが良く用いられる。しかし金属タンパク質の場合には、2つの理由により上手く動作しないことが多い。(1)金属イオンの結合に伴い、結合サイトの配位子のプロトン化状態が変化する。(2)金属イオンの水和状態を精度良くする計算する枠組みがない。上記の問題解決のため今年度はシミュレーション手法の拡張/改善を行なった。
(1)水素イオンの動力学シミュレーション手法の確立
水素イオンは、我々にとって最も身近な存在であるが、分子シミュレーションにおいては最も取り扱いが難しい対象であった。プロトンの水和自由エネルギーを直接算出することができなかった。そのために小分子のpKaからプロトンの水和自由エネルギーなどを推定して用いてきた。しかし、この方法では分子種ごとに自由エネルギーが異なったりするなどエラーが非常に大きかった。そこで今回、我々はプロトン移動のダイナミクスシミュレーションのための理論的な枠組みを構築した。これにより巨大な系におけるプロトン移動を非常に低コストで実現することに成功した。
(2)金属イオンの水和ダイナミクス
金属イオンとタンパク質の結合を議論するには、結合状態だけでなく水和ダイナミクスを計算するには、金属イオンの水和状態をシミュレートする必要がある。しかし、金属イオンは電子の授受により水分子と強く結合しているためにイオンだけでなく水分子まで量子化学的に取り扱う必要がある。今回、我々は溶媒の量子効果を取り扱う手法の精度向上を行い、金属イオンの水和ダイナミクスを取り扱えるようにまで拡張した。その結果、今までは再現精度が低いあるいは取り扱うことが困難な金属イオンの水和ダイナミクスが算出可能になった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

4: 遅れている

理由

本来はタンパク質等への応用研究も遂行する予定であった。一般的にタンパク質の分子シミュレーションの解析は可視化や大量のデータ解析が必要となる。しかしコロナ禍に対する急な在宅勤務要請のために、それらデータを取り扱う適切なネットワークおよびコンピュータ環境を得ることができなかった。そのために計算手法の開発、および小分子系へのテスト計算などを中心とした研究にシフトしたことによる。また、大学事務の機能停止/低下もあり必要な計算機やソフトウェアの購入も半年以上の遅れをきたした。

今後の研究の推進方策

昨年度までに開発した手法等を用いて金属タンパク質への適用を進めている。
対象タンパク質は当初予定していたものから、より応用からの要請が強い活性酸素分解酵素と金属シャペロンタンパク質に変更して行っている。
具体的には、前者のイオンの選択性について、後者は二量体形成についてのメカニズムの解析を行う予定である。そのための熱力学サイクルの一部までは現在計算されており、今後はサイクルを完成させた後、アミノ酸変異やイオン付与の順番を変えてどのような違いが現れるか解析する。
コロナ禍により先を予測することが難しい点もあるが、在宅での研究環境もある程度、整えることができたために制限はあるが、ある程度タンパク質など巨大な系の解析にも対応できるようにはなった。またコロナによる移動制限等が緩和することがあれば、オンラインでは難しい共同研究者との詳細な打ち合わせ等を行いたい。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2021 2020 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)

  • [国際共同研究] IBM Research(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      IBM Research
  • [雑誌論文] Proton transfer in bulk water using the full adaptive QM/MM method: integration of solute- and solvent-adaptive approaches2021

    • 著者名/発表者名
      Hiroshi C. Watanabe, Masayuki Yamada, Yohichi Suzuki
    • 雑誌名

      Physical Chemistry Chemical Physics

      巻: 23 ページ: 8344~8360

    • DOI

      10.1039/D1CP00116G

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Label‐Free Phase Change Detection of Lipid Bilayers Using Nanoscale Diamond Magnetometry2021

    • 著者名/発表者名
      Ishiwata Hitoshi、Watanabe Hiroshi C.、Hanashima Shinya、Iwasaki Takayuki、Hatano Mutsuko
    • 雑誌名

      Advanced Quantum Technologies

      巻: 4 ページ: 2000106~2000106

    • DOI

      10.1002/qute.202000106

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Post-Hartree-Fock method in Quantum Chemistry for Quantum Computer2021

    • 著者名/発表者名
      Yutaka Shikano, Hiroshi C. Watanabe, Ken M. Nakanishi, Yu-ya Ohnishi
    • 雑誌名

      THE EUROPEAN PHYSICAL JOURNAL

      巻: - ページ: -

    • DOI

      10.1140/epjs/s11734-021-00087-z

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 量子古典ハイブリッドモデルによる溶液系のダイナミクスシミュレーション――溶媒量子効果の取り込みへの挑戦2021

    • 著者名/発表者名
      渡邉 宙志
    • 雑誌名

      日本物理学会誌

      巻: 76 ページ: 81~86

    • DOI

      10.11316/butsuri.76.2_81

  • [雑誌論文] Applications of Quantum Computing for Investigations of Electronic Transitions in Phenylsulfonyl-carbazole TADF Emitters2021

    • 著者名/発表者名
      Qi Gao, Gavin O Jones, Mario Motta, Michihiko Sugawara, Hiroshi C Watanabe, Takao Kobayashi, Eriko Watanabe, Yu-ya Ohnishi, Hajime Nakamura, Naoki Yamamoto
    • 雑誌名

      Nature material science

      巻: - ページ: -

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] 量子コンピュータにおける変分量子固有値法の量子化学計算への応用2021

    • 著者名/発表者名
      渡邉宙志
    • 学会等名
      自然科学における階層と全体
    • 招待講演
  • [学会発表] 溶媒の電子状態を取り込んだ分子動力学計算と生体分子への応用,2020

    • 著者名/発表者名
      渡邉宙志
    • 学会等名
      量子生命科学会第2回大会
    • 招待講演

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公開日: 2021-12-27  

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