金属タンパク質の金属イオンの選択/非選択性の背後に存在する共通した金属認識原理は、金属動態を理解し制御する上で非常に重要な要素となる。 一般的にタンパク質とイオンなどの結合を議論するには、タンパク質配位した状態だけでなく、水和状態およびタンパク質に取り込まれる際のダイナミクスまで考慮する必要がある。その際、遷移金属イオンは水分子と強く配位しているために、溶質のイオンだけでなく、水の量子化学効果を取り込む必要がある。しかしながら従来の分子シミュレーションは、水の量子化学効果を動的に取り込むことができず、金属イオンの動的な解析はほとんどなされてこなかった。そこで本研究では、溶液系での金属イオンの水和ダイナミクスとタンパク質による取り込みのエナジェティクス解析のための理論的基盤の創出と応用を目指した。 具体的には我々が過去に開発した水の量子化学効果の取り込む計算手法(Size-consistent multi-partitioning:SCMP)を拡張し、遷移金属の取り扱いを可能にした。さらに拡張した手法を溶媒和自由エネルギー計算の枠組みに融合させることで様々な金属イオンの結合エネルギーの高精度な算出を試みた。そのために具体的ターゲットとして、金属タンパク質シャペロンAtx1およびCCSを用いた金属イオンの結合性と溶媒和効果の解析をおこなった。銅イオンは毒性があるが、同時に生体に不可欠な存在である。これらタンパク質は、一時的に二量体を形成し銅イオンを授受することで銅イオンの局在性を保っている。しかし二量体のその結合様式や安定性に関して議論があった。そこで当該手法を応用し結合に重要なアミノ酸残基やその性質を明らかにした。
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