本研究で材料としたLeptospira kobayashii(レプトスピラ・コバヤシイ)は,青~緑の光によって運動パターンが変化するという現象は明らかであったものの,本研究開始当初は,光センサーが未同定であった。トランスポゾンを用いたランダム変異挿入法によりゲノムワイドに得た変異体ライブラリーから光応答を欠損した株を見つけることができ,そのトランスポゾン挿入位置解析から,光応答欠損株ではアデニル酸シクラーゼモチーフを含む新規の遺伝子が破壊されていることが分かった。光依存的なcAMP合成の測定を試みたが,本来の宿主であるL. kobayashiiでは測定限界に近い低濃度であった。コドン最適化によって,L. kobayashiiの光応答関連遺伝子を大腸菌で過剰発現することに成功し,大腸菌発現系によって光依存的cAMP合成が確認できた。我々は,この遺伝子をLprA(leptospiral photoresponsive protein A)と名付けた。LprAに緑色蛍光蛋白質を標識して細胞内局在を調べたところ,菌体当たりの発現量は多くないが,興味深いことにべん毛モーターが存在する菌体両末端に局在していることがわかった。LprAの極局在は,cAMP濃度をべん毛モーター近傍で局所的に高める信号増幅の効果を示唆する。LprA欠損株は光依存的なcAMP合成能を失うが,膜透過性cAMPの培地への添加に瞬時に応答して野生型と同様の運動変化を示すことも明らかとなった。この結果は,cAMPがべん毛運動に作用していることを示す。光活性型アデニル酸シクラーゼはミドリムシで初めて発見され,いくつかの土壌細菌でも類似遺伝子が見つかっている。しかし,細菌の運動を光刺激後1秒程度で瞬時に変化させる例はない。新しいシグナル経路の発見ならびにオプトジェネティクスの新材料開発につながることが期待できる。
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