研究領域 | 情報物理学でひもとく生命の秩序と設計原理 |
研究課題/領域番号 |
20H05526
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
金澤 輝代士 筑波大学, システム情報系, 助教 (50759256)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 統計物理学 / 異常拡散 / 非マルコフ過程 / ホークス過程 |
研究実績の概要 |
ブラウン運動を代表とする拡散現象の数理は、世の中の様々な現象の記述に関わる重要な道具である。ブラウン運動のような『通常の拡散現象』に対して、アクティブマター系のような非平衡系では『異常拡散』と呼ばれる数理的に特殊な拡散現象がしばしば観測される。しかし、異常拡散を統計力学として微視的に理解することは未だ完全には達成できない難しい目標である。特に、アクティブマター系では確率過程における非マルコフ性が顕在化することが理論的にも実験的にも示唆されている。そこで本研究では非マルコフな異常拡散現象を理解するため、統計物理学における数理基盤の研究を行った。 初年度は非マルコフ確率過程の基礎研究を行った。非マルコフ確率過程とは、過去の履歴に強く依存する確率過程である。非マルコフ確率過程は数学的な性質があまりわかっておらず、標準的な数理的枠組みが完成していない。そこで、ホークス過程と呼ばれる臨界現象が関わる確率過程の数理モデルを題材に、非マルコフ過程の解法を研究した。 具体的には非マルコフ過程に対するマスター方程式を、確率場の理論の枠組みを用いて定式化した。まず、1変数非マルコフ過程に対してマルコフ埋め込み法を用いて無限次元のマルコフ場に変形することを行った。この手法を用いて1次元非マルコフ過程を確率偏微分方程式に変形し、それに対応する場のマスター方程式を導出した。場のマスター方程式を漸近的に解くことで、定常状態における強度分布の冪則を解明した。本研究結果はPhysical Review LettersとPhysical Review Researchから出版された。 更に非線形ホークス過程に本手法を拡張した。結果、幅広い非線形ホークス過程において普遍的な冪則が存在することがわかった。本研究内容はarXivに公表済みであり、現在査読中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
既にホークス過程と呼ばれる代表的な非マルコフ過程に対して、マルコフ埋め込み法を用いることで場のマスター方程式を導出した。本ケーススタディを通じて、より一般の非マルコフ過程に対して場のマスター方程式を導出する技術的な技巧が完成する見通しが立った。これは重要な進展だと研究執行者は考える。 また、本研究内容をまとめた論文が物理学のトップジャーナルであるPhysical Review LettersとPhysical Review Researchから出版されたことも本研究が客観的に評価を受けつつあることの傍証だと研究執行者は考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方針としては以下3つの方向を考えている。 まずは現在査読中の非線形ホークス過程の研究を完成させ、出版にこぎつけることを考えている。更に、現在査読中の原稿は短いレター原稿であるが、同時に長いフルペーパーを執筆中である。レター原稿に加えてフルペーパーを本年度中に投稿し、可能であれば両原稿を本年度中に出版することを目指す。 次にホークス過程を超えたより広い一般的な非マルコフ点過程に対して、理論的な枠組みを構築する。既にノートのレベルでは、幅広い非マルコフ点過程に適用可能な枠組みが出来つつあるが、まだ完全には技術的な問題点が解決しきっていない。そこで本アイディアを出版可能なレベルまで技術的に発展させることを目指す。 最後に本手法を用いることでアクティブマター系での異常拡散の研究を遂行する。具体的にはK. Kanazawa et al., Nature 2020で提案された非マルコフ・ポアソン過程を場のマスター方程式の枠組みを用いて理解する。
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