研究領域 | 情報物理学でひもとく生命の秩序と設計原理 |
研究課題/領域番号 |
20H05530
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
笹井 理生 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (30178628)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 生物リズム / 熱力学不確定性関係 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、タンパク質の概日リズム振動におけるATP反応の役割を解明し、生物リズムという“情報秩序”を生み出す熱力学的な仕組みを明らかにすることにある。このため、次の2つを目標とする。(1)KaiC分子の振動位相の分子ペア間相関に関する相互情報量を含むように、熱力学不確定性関係を拡張する可能性を探る。(2)生化学、構造生物学による実験データとの比較により、モデルの妥当性について検証を深める。情報物理学の新しい展望を開くとともに、実験グループと連絡をとりながら振動系の分析を行い、個別分子と分子集団という異なる階層の理解を統合して、多分子間のコミュニケーションにおけるATP反応の役割を解明する。
本年度は、これまで準備段階で研究代表者の開発してきた多重フィードバックモデルによってKaiC分子の振動位相分布を計算するとともに、分子ペア間の位相についての分散を計算して、集団内の振動同期を定量的に評価した。同時に、エントロピー生成を計算し、確率流の計算によりその内容を分析した。振動同期とエントロピー生成の間の関係式として、熱力学不確定性関係を拡張する可能性を批判的に検討した。
また、多重フィードバックモデルを実験と比較して批判的に検討し、必要な改良を加えた。とくに、異なる振動位相を示す溶液を混ぜたときの位相の引き込み、温度の時間的変調に対する振動の応答、低温でのホップ分岐の定量的挙動など、多彩な生化学的測定データとモデルの振る舞いを比較し、モデルの妥当性を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多重フィードバックモデルによってKaiC分子の振動位相分布を計算し、分子ペア間の位相についての分散を計算して、集団内の振動同期を定量的に評価した。この評価により、同期におけるATP反応の役割を明示することができた。
また、多重フィードバックモデルを実験と比較して批判的に検討し、必要な改良を加えることができた。とくに、異なる振動位相を示す溶液を混ぜたときの位相の引き込みについて、明瞭な結果を得て、モデルの有効性を確認するとともに、実験への示唆を与えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、2020年度に開発した多重フィードバックモデルを用いて、KaiC分子の振動位相分布についての計算をさらに拡張し。振動の位相同期とATP消費量の関係を解析して、熱力学不確定性関係を拡張する可能性を批判的に検討する。また、多重フィードバックモデルをATP消費量、分子構造、振動周期などにわたる多彩な生化学的測定データと比較し、モデルの妥当性をさらに検討する。
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