研究実績の概要 |
本研究は、細胞内分子直接可視化により得られる高精度の分子動態情報を基盤に、力学的情報処理機構の解明を目的として研究を実施し、以下の成果を得られた。 (1)ずり応力による分子勾配配置の可視化解析:培養細胞観察を対象とする、圧力駆動流とフローセルを用いたずり応力制御系と高解像度蛍光顕微鏡を組み合わせたライブイメージング技術を確立した。その結果、ずり応力の負荷により、細胞膜タンパク質が下流方向に集積する濃度勾配形成が引き起こされることを見出した。さらに、細胞膜タンパク質にSNAPタグを融合して培養細胞に発現させ、ベンジルグアニン結合蛍光色素で特異的に化学標識することで、ずり応力下での細胞膜分子の高精度1分子イメージングに成功した。 (2)ずり応力が引き起こすアクチンダイナミクスの変動:アクチン細胞骨格は力学刺激を受ける細胞表層や接着構造の主要な構造体であり、アクチンダイナミクスが力学的情報メモリに関与する可能性があるため、これを検証した。その結果、細胞辺縁の葉状仮足に局在するアクチン網目構造は、ヒトの循環では静脈に相当する低いずり応力でも応答し、さらに、細胞が流れの上流側に接する領域と下流側の領域において、異なる応答性を示した。詳細な観察結果より、力負荷停止後もずり応力の力学的情報が上流側のアクチン構造に留まり、アクチン重合が抑制されている可能性が示された。 上記の成果に加えて、当該領域に関連する研究を解説した「生体の科学 特集 生物物理学の進歩 ―生命現象の定量的理解へ向けて」(Vol. 72, No.3, 2021年6月号)に総説を寄稿した。また、細胞生物学会(2021年7月)において、最新の研究成果を発表した。第44回分子生物学会(2021年12月)では、ワークショップ「細胞骨格・細胞運動研究のフロンティア」のオーガナイザーを務め、研究成果を報告した。
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