研究実績の概要 |
細菌の運動器官であるべん毛は水素イオン流を回転力に変換する回転分子モーターである。べん毛モーターには反転制御装置が装備されているため、モーターは水素イオン流の向きを変えずに時計回りにも反時計回りにも回転し、その回転方向は環境中の化学物質に反応してミリ秒程度の短い時間でギアを切り替えるように瞬時に切り替わる。さらに、回転方向の切り替え頻度はべん毛モーターが発生する回転力にも依存する。本研究は、走化性シグナル分子である CheY-Pへの感受性が変化したべん毛モーターのスイッチ頻度を定量的に計測し、べん毛モーターの反転制御装置の設計原理の解明を目指す。本年度の主な成果は以下に示す。
1. 回転方向の切替えの鍵を握るFliG分子はFliGN, FliGM, FliGCの3つのドメインとそれらをつなぐリンカーヘリックス(NMヘリックスとMCヘリックス)で構成される。FliGCはさらにFliGCNとFliGCCと呼ばれる2つのサブドメインに分けられる。べん毛モーターがCCW方向に回転する際、NMヘリックスのC末領域とMCヘリックスのN末領域は相互作用するが、べん毛モーターの回転方向がCWにスイッチするとその相互作用が失われた。CheY-Pがべん毛モーターに結合すると、MCヘリックスが位置するFliGとFliMの境界面の疎水的相互作用ネットワークのリモデリングが発生し、その結果MCヘリックスとNMヘリックスの相互作用変化がFliGCNとFliGCCを繋ぐループ領域の構造変化を引き起こし、FliGCCがFliGCNに対して180°回転することが示唆された。さらに、MCヘリックスの構造変化に伴ってCheY-P対するべん毛モーターの結合親和性が変化することも示唆された。 2. CCWバイアスの表現型を示すcheZ変異によってCheY-Pの脱リン酸化反応が促進されることが示唆された。
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