研究領域 | 情報物理学でひもとく生命の秩序と設計原理 |
研究課題/領域番号 |
20H05536
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
水野 大介 九州大学, 理学研究院, 教授 (30452741)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アクティブマター / 非平衡メカニクス / 非平衡散逸 / 非ガウス揺らぎ / 揺動散逸定理 |
研究実績の概要 |
モーター蛋白質やその他の酵素分子を始めとする生体高分子機械は、希薄なin vitro系よりも密に詰め込まれた細胞内の混み合い環境の下で最適に稼働する。本研究では、生体高分子機械の稼働速度や効率に対して周囲媒質の”非平衡性”が及ぼす影響に着目して、この謎の解明を目指している。 混み合い環境のもとで生体高分子機械が稼働すると、非熱的な揺らぎが生じて細胞質は非平衡状態となる。これまで、揺動散逸定理の破れを観測することで、非平衡系における非熱的揺らぎの強度(2次のモーメント)を求め、その増大に伴って細胞骨格が硬化したり、逆に、細胞質の流動が促進することを見出した。これらの観測結果は、生体高分子機械が主導する細胞内部の代謝活動が、非熱的な揺らぎによって物理的に活性化される可能性を示唆する。他方で、細胞内における非熱的な揺らぎは、系の熱力学温度を変えない程度の僅かなエネルギーしか持たない。したがって、熱的には励起しにくい過程を微弱な非熱的揺らぎが速やかに励起して、生体高分子機械の機能を活性化していると考えられた。そこで、非熱的な揺らぎが、熱揺らぎとは全く異なる統計的な偏りや時空間相関を示すことに着目して、非熱的揺らぎの有用性の評価に取り組んだ。 具体的には、揺動散逸定理の破れから、非平衡散逸、力のスペクトル、実効温度等を見積もり、また、非熱揺らぎの統計分布を解析することで、その非ガウス性が生体高分子機械にとっての非熱エネルギーの質とどのように関係するか?考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平衡かつ混み合った媒質内で生体高分子機械の機能が向上する機構を解明するために、周囲媒質のメカニクスと非平衡揺らぎに着目した実験的研究を推進した。そのために、マイクロレオロジー法を用いて、細胞内部や細胞類似のモデル試料に埋め込んだコロイド粒子の揺らぎ・応答観測を行い、揺動散逸定理の破れ(=非熱的な揺らぎの強さ)と、周囲媒質の力学特性の関係性を系統的に観測した。得られた結果を領域研究者との議論の下で解析し、結果のとりまとめを行っている。
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今後の研究の推進方策 |
今後さらに、生体高分子機械の動き易さや、生体高分子に伝達する非熱的な力を推定し、生体高分子機械の機能と非熱揺らぎの相関を理論解析するための実験的知見を得る。得られた結果を領域内の理論研究者と忌憚なく議論することで、非熱揺らぎの“強度”に留まらず、その“質”を評価するための方法論の構築を目指す。
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