研究領域 | 情報物理学でひもとく生命の秩序と設計原理 |
研究課題/領域番号 |
20H05542
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
富重 道雄 青山学院大学, 理工学部, 教授 (50361530)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 分子モーター / 生物物理 / 1分子計測(SMD) / ナノマシン / 細胞内輸送 |
研究実績の概要 |
本研究は、細胞内での物質輸送に関わる分子モーターキネシンが、ATP加水分解によって得られた化学エネルギーを一方向性の運動に変換する仕組みを情報熱力学的な観点から明らかにすることを目標とする。キネシン頭部を金微粒子で標識してその動きを高速暗視野顕微鏡を用いてマイクロ秒の時間分解能で観察することにより、解離した頭部のブラウン運動や、頭部が前方または同じ結合部位に再結合する様子を定量的に計測する。またさまざまな変異体ヘテロダイマーを用いた計測を行うことにより、ATP結合やADP解離などの化学的ステップがこれらの過程に与える影響を調べる。本年度は、ADP解離の遅いK252A変異体頭部と野生型頭部からなる変異体ヘテロダイマーの観察を主に行った。変異体ヘテロダイマーの運動を野生型ホモダイマーと比較したところ、微小管から解離するまでの移動距離が減少し、より低いイオン強度で運動を示さなくなった。高速一分子計測を用いて頭部の運動を観察したところ、野生型頭部はATP加水分解依存的な結合解離を示したのに対し、変異体頭部は微小管に結合後、ADP解離を伴わない可逆的な微小管からの解離を高い頻度で示した。さらに微小管から両頭部が解離する直前の頭部の動きを詳しく解析したところ、野生型ホモダイマーと変異体ヘテロダイマーのいずれも両頭部が解離する直前に前頭部の可逆的な解離が高い頻度で見られた。これらの結果は、キネシンは浮いた頭部が前方に移動した後、ADPを解離して微小管に強く結合する前に、微小管に結合した頭部がATPの加水分解を完了してしまうことで、両方の頭部がADP状態となり微小管から解離し、それが移動距離を決める主な要因であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はATP加水分解やADP解離などさまざまな加水分解ステップの遅い変異体を用いて高時間分解能の計測を行う予定であったが、その中でADP解離の遅い変異体ヘテロダイマーの観察において予想外の結果が得られたため、この変異体へテロダイマーの観察を中心的に行った。これまで浮いた頭部が微小管に結合した後は速やかにADPが解離しすると考えられてきたが、本研究により微小管に結合してADPが解離するまでにはタイムラグがあり、その間に頭部が可逆的に解離することが微小管からの両頭部解離を引き起こす主な要因であるという新しい知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
負荷を受けて運動中のキネシン頭部が微小管から解離して再び結合するまでの過程を高速一分子観察することで、負荷が頭部のブラウン運動や前後への結合頻度に与える影響を調べる。具体的には、DNAオリガミでできたナノスプリングの片端に野生型キネシン、もう一方の端に変異体キネシンを取り付け、金コロイド標識したキネシン頭部の運動を高速暗視野顕微鏡法を用いて観察する。この方法により、頭部が解離した後のブラウン運動が負荷の大きさによってどのように変化するか、 また前後の結合部位への結合頻度が負荷によってどのように変化するのかを明らかにすることで、力発生やエネルギー変換に重要な化学ステップや構造基盤を明らかにすることを目指す。
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