細菌という小さな生命体であっても高度な情報理機構をもつことが知られている。本研究では「走光性」という現象に注目する。走光性システムをもつ細菌に光を照射すると、光に向かって動くことが知られている。ここには「光の向きを認識する」という過程が含まれている。細菌には「眼点」は存在しない。では、なぜ彼らはこのような高度な情報処理ができるのだろうか?ここで我々は光の照射を制御した際に細菌1個体がどのように動き回るのか、特殊な光学顕微鏡下で詳細な観察を行った。 光合成細菌である藍藻は「光」という刺激に対して、好きまたは嫌いという2つの真逆の応答を示す。この “好き嫌い” の切り替えがどのように起きるのかはこれまで不明であった。サーモシネココッカスという好熱性藍藻の場合、“光が好き” だという応答は緑色光によって誘起され、藍藻は光に向かって運動した。一方、“光が嫌い” だという応答は、緑色光+青色光で誘起され、光から離れるように運動をした。この真逆の意思決定は1分程度の光刺激によって可逆的に操作可能であった。一連の意思決定には、c-di-GMP という低分子の細胞内濃度に依存することも見出した。緑色光を検出すると c-di-GMP が分解されて細胞内濃度が低くなったたが、青色光を検出すると c-di-GMP が合成されて濃度が高くなった。この情報伝達物質の濃度変化によって、藍藻は心変わりを引き起こすことを明らかにした。藍藻の心変わりは環境応答という視点でも重要である。日々刻々と移り変わる自然環境にすぐさま応答することで、自身に最適な光環境へと移動できるのだと考えられる。
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