研究領域 | 情報物理学でひもとく生命の秩序と設計原理 |
研究課題/領域番号 |
20H05545
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
宗行 英朗 中央大学, 理工学部, 教授 (80219865)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ラチェットモデル / 分子モーター / 能動輸送系 / 分子動力学計算 |
研究実績の概要 |
本研究計画では,分子モーターや能動輸送体での入力と出力の“共役”を,両者の「相関」ととらえなおすことにより情報熱力学の舞台にのせ,二つのラチェットが共役するモデルに落とし込んだ.オリジナルになるモデル[Muneyuki E, Sekimoto K. Phys. Rev. E 81,011137(2010)]は,生化学的な知見から考えられる8状態のモデルであったが,本研究では共同研究者となっていただいた東京大学の伊藤博士,岡田博士,学生の吉田さんの多大な協力を得て,より一般的に考えられる16状態モデルに拡大し,既存のモデルをすべて包含する形にすることができた.生化学的な研究で実際のたんぱく質の状態として16状態を実験的に特定することは難しいが,普遍性を持つ一般論としては,あえて実際のたんぱく質の知見にとらわれずに,考えられるものをすべて含むようにしたほうが美しいと考えられる.現在この研究結果をまとめた論文は,一度却下されて再投稿の準備中である. 一方,実際のたんぱく質としてF1モーターを扱う研究も並行して進めた.当初の計画では変異導入と変異体の生化学的な研究を目指していたが,コロナ禍のため実験研究がすすめられず,代わってSobtiらにより報告されたクライオ電顕による構造をもとに,理化学研究所の杉田博士のグループと,私の研究室の学生の本橋君で分子動力学による研究を進めており,現在のところ,基本的な平衡化などはほぼ終了し,回転軸であるγサブユニットの回転角を定義するための軸を定義しており,研究は順調に進みつつある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の「研究実績の概要」にもあるように,16状態をもつモデルは軽微な変更をして再投稿直前の状態にあり,遅かれ早かれ論文として出版できると考えている. 分子動力学計算についても,研究の方針ははっきりとたっており,リン酸の解離する経路などをはっきりさせることができると期待でき,おおむね順調に進展していると考えられる.さらに踏み込んでATPの加水分解産物であるADPとPiのどちらが先にF1から脱離するかに関する情報も得たいと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画で追及した16状態をもつモデルは厳密ではあるが,かなり抽象的なものになってしまい,実際の分子モーターとの関連が見えにくくなってしまった嫌いがある.そこで,今後はこのモデルをよく咀嚼して実体との対応を洗練された形で明示し,論文にまとめられる形にすると共に,実験研究にフィードバックすることを目指す. F1モーターについてはATPの加水分解と回転子であるγサブユニットの動きの詳細を極めたい.
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