研究領域 | 人間機械共生社会を目指した対話知能システム学 |
研究課題/領域番号 |
20H05568
|
研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
小山 虎 山口大学, 時間学研究所, 講師(テニュアトラック) (80600519)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 根源的規約主義 / 慣習 / 対話規範 / 社会規範 / 法的推論 |
研究実績の概要 |
今年度はCOVID19により予定していた研究会が開催できず、出張も一切行うことができなかったが、その分の予算を文献購入に充て、法学、エスノメソドロジー、および言語哲学の文献精査に注力した。その成果として、以下のことが明らかとなった。今後、日本ロボット学会大会で発表し、論文にまとめて投稿する予定である。
(1)適切なタイミングでの発言や適切な発言権の移動(ターンテイキング)は対話システムに求められる機能である一方で、いじめや差別といった社会問題は発言の無視として現れるため、発言権を適切に分析し、モデル化することは両者共通の課題となっている。このように発言権は、対話知能システムの研究開発と社会規範の交点となっており、本研究で追及する対話規範モデルの基盤となりうる。 (2)発言権は法的権利ではないものの、ある種の権利(あるいは権利に近いもの)だと考えられる。法哲学では権利を規則に基礎付けるアプローチが支配的だが、逆に権利に規則を基礎付けるアプローチも近年提案されている。後者の「権利優先アプローチ」は法的権利とは区別される原初的な権利を措定するものがあり、また根源的規約主義と多くの共通点があるため、発言権に適用することができる。 (3)法哲学における権利概念の分析に従えば、発言権を適切に取り扱うために求められる要件を特定することが可能である。また、要件をどの程度満たしているかで対話システムを分類することができる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID19の影響により、今年度に3度実施することを予定していた進捗報告会を兼ねた研究会が全て中止することになり、研究の進捗が危ぶまれたが、代わりに情報収集を規模を拡大して法哲学の関連文献を精査し、またリモートで研究協力者とのミーティングを集中的に実施したことにより、対話規範モデルに必要な要素の抽出など、一定の成果を得ることができた。特に、来年度に実施を予定していた法哲学的な含意の抽出や対話規範と社会規範の関係については、今年度の段階で一定の見通しを得るまでに至った。加えて、予想外の成果として、自動運転車のレベル分けに相当するような、対話システムのレベル分け案が提案できる見通しがたった。上記を総合すると、研究会の中止により外部講演者との情報交換は不十分であったものの、予想外の成果も得られたため、全体としてはおおむね予定通りの進展を果たしていると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度の進捗を踏まえて、来年度は下記の二つの研究活動を実施する。
(A)対話規範モデル構築:前年度に抽出した対話規範モデルに必要な要素を元に、Higashinaka et al. 2016やUchida et al. 2016 などの対話 システムを用いたヒューマン・ロボット・インタラクション研究を参考にして、新たな対話規範モデルを構築する。また、(B)の成果を踏まえ て、構築したモデルを対話システムの研究開発でも利用可能なかたちへと洗練させる。 (B)対話規範と社会規範の関係解明:(A)で構築した根源的規約主義に基づく対話規範モデルの持つ社会規範への法哲学的含意について検討する 。特に、法的実践に参加できる対話システムには何が必要か、そのよう なシステムが存在する社会における規範のあり方はどのようなものか について、ロボット法に関する近年の文献(弥永・宍戸 2018 など)で論じられていない論点を抽出する。また、応用的な成果として、対話知能 システムのレベル分け(自動運転のレベル分けに相当)の案を検討する。
上記に加えて、研究協力者との進捗報告会を兼ねたオンライン研究会を開催し、哲学、エスノメソドロジー、法哲学、ヒューマン・ロボット・インタラクションなど関連する諸分野の専門家を外部講演者として招くことで、研究を加速化させる。
|