研究領域 | 超地球生命体を解き明かすポストコッホ機能生態学 |
研究課題/領域番号 |
20H05584
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
本郷 裕一 東京工業大学, 生命理工学院, 教授 (90392117)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 共生 / 腸内細菌 / 細胞共生 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、異種細菌間での種特異的な付着型相利共生系の実態をゲノム情報等を基に解明し、細菌間付着共生がゲノム進化へ与える影響を検証することである。特に、真核細胞の起源である「原核生物間での細胞内共生」の初期段階としての特異的付着共生の可能性を考察する。細菌間の種特異的な付着共生は極めて稀な現象だが、シロアリ腸内原生生物細胞表面において、未培養細菌系統群とスピロヘータあるいは硫酸還元菌との付着・近接共生系が観察されている。こうした共生細菌群は未培養(おそらく人工培養不能)であるが、本研究では1細胞ゲノム解析等の分子生態学的手法を駆使することで、これら共生細菌の機能を予測し、細菌間相互作用の解明を試みる。 2020年度(2021年度への繰越し含む)は、硫酸還元菌と近接共生する未培養アルファプロテオバクテリアについて両者のゲノム配列を取得し、代謝系を予測した。その結果、前者は多くの硫酸還元菌同様に水素を硫酸あるいはフマル酸で酸化することでエネルギーを得ていると予測され、後者はリケッチア同様にATPや核酸、アミノ酸などを宿主から奪取する寄生者であることが予測された。しかしながら、なぜ両者が特異な近接共生構造を取るのかは、まだ不明である。 上記の硫酸還元菌とアルファプロテオバクテリアとの近接共生系に加えて、アルファプロテオバクテリアとスピロヘータの特異的付着共生系について、その共生頻度や局在パターンの情報も取得中で、電子顕微鏡観察による局在の詳細な観察も試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度4月から9月までコロナ感染対策として出校制限と出張制限が課され、その後も研究室メンバーの出校には大きな配慮が求められたため、2020年度中の研究はかなり遅延した。予算を繰り越した2021年度までかけて、前項に記述したとおり、近接共生する硫酸還元菌とアルファプロテオバクテリアのゲノム配列を取得した。ただし、前者については完全長配列を取得済みだが、後者はドラフトゲノムである。試料を再調製したり、ショートリードとロングリードの両方を取得したり、様々な配列アセンブル手法を試したりしたが、完全長配列は取得できていない。鋳型となる細胞数が限定されているためかもしれないので(その場合はやり直してもおそらく難しい)完全長取得は諦め、現状のドラフトゲノム配列での情報解析を進行中である。しかし上述のとおり、今の所、なぜ近接共生をしているのかは不明である。 また、本研究の難しさは、いずれの近接・付着共生系も常に見られるわけではなく、シロアリコロニーによって共生頻度が異なる、つまり日和見共生系であるために、実験が成功するとは限らないことである。しかし、他にこうした特異的付着共生が観察できる系は未知であるため、根気良く実験を繰り返すしか無い。
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今後の研究の推進方策 |
アルファプロテオバクテリアと硫酸還元菌の近接共生系のゲノム情報解析を進めるとともに、両者の局在の詳細な電子顕微鏡観察を行う。しかし、電子顕微鏡観察像では細菌種の判別がほぼ不可能なため、16S rRNAを標的とするin situ hybridizationで細菌種を同定する実験系の最適化も進めている。 また、上記共生系に加えて、目標の一つであるアルファプロテオバクテリアとスピロヘータの付着共生の解析も実施する。具体的には、同スピロヘータは特定の原生生物種の細胞表面付着共生体であるため、その原生生物種を物理的に単離し、そのスピロヘータと付着共生アルファプロテオバクテリアで構成されるメタゲノムの配列取得を目指す。あるいは、大熊計画班との共同研究で開発してきたアガロースゲルマイクロカプセルを用いた1細胞ゲノム解析系を使用して、スピロヘータとアルファプロテオバクテリアあるいはTermititenaxの付着共生複合体ごと単離し、それらのゲノム配列取得を試みる。同1細胞ゲノム解析系は、現在最適化を進めている。
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