研究実績の概要 |
本研究では、微生物群が植物との共生時に発現する機能情報を包括的に理解するための基盤技術の確立を目指し、前年度には植物試料由来の環境RNAから微生物mRNAを濃縮して取得するための要素技術(密度勾配遠心による微生物細胞の濃縮法、高効率なトータルRNAの抽出法、ハイブリダイゼーションによる解析対象外のRNAの選択的除去法)を開発した。2021年度は、筑波大学の畑作施肥量試験圃場にて栽培される無窒素区と施肥区の出穂期コムギの解析に本技術を適用し、従来法と比較した共生微生物群の機能情報の取得効率に違いが見られるかを検証するための研究を展開した。 コムギ地上部の各個体10g程度から十分量のRNAを取得することができ、3種類のRNA;(1)従来法による植物RNAが大半を占めるRNA、(2)微生物細胞の濃縮ペレット由来のRNA、(3)(2)からさらに解析対象外RNAを除去したRNA、を調製することに成功した。一方で、コムギ根からはその後の解析に量的・質的に十分なRNAを取得できなかったため、その後の解析は主にコムギ地上部を対象に行った。 各RNAは原核生物のrRNA除去を実施後に、次世代シーケンサーDNBSEQを用いたペアエンドシーケンスを行い、各検体あたり約20Gb、約5,000万リードペア程度の塩基配列情報を取得した。RNAシーケンスをマッピングする際のメタゲノム情報の取得やデータ解析は他班と連携して実施中である。開発手法の適用により、総リードに占める微生物RNAの割合に違いが見られるかを検証し、圃場の試験区間の植物生産性の違いを共生微生物群の機能発現情報の観点から考察する。 本研究で開発した技術や実試料への適用知見をもとに、さらなる技術改良を行うことで、将来の食料増産や農耕地の環境制御に貢献しうる"植物共生時の微生物群集ならでは" の新規な機能情報が効率的に見出されるものと期待される。
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