2009年4~7月に、南緯17゜のWOCE線上の南太平洋亜熱帯海域の東西断面および西部北太平洋熱帯・亜熱帯海域で行われた「みらい」MR09-01航海、東シナ海およびフィリピン海で行われた2009年9月の淡青丸KT-09-17航海と2010年5月の白鳳丸KH-10-1航海で得た試料の分析を基に窒素固定生物の出現特性に関して以下の結果を得た。Richeliaは本研究を通して一貫して出現しないか、あるいは極めて低い現存量であった。Trichodesmium、シアノバクテリアのグループAおよびグループBの3グループのnifH遺伝子はいずれも表層または表層付近で極大型の鉛直分布を示したが、地理分布にはグループ間の違いが認められた。Trichodesmiumは最も広汎に分布した一方で局地的に高い現存量を示し、日和見的な生態特性をもつことが示唆された。特にフィジー、エファテ島の周辺で高いコピー数が得られ、ナノモルレベルでのリン枯渇の原因となった。また、窒素およびリンが枯渇した宮古島周辺においても濃密なブルームを形成した。グループBもTrichodesmium同様に分布域が広かったが、現存量の多い海域は両者で異なった。すなわちTrichodesmiumが多かったフィジーおよびエファテ島付近ではグループBは増加を示さず、Trichodesmiumの現存量が特に高くなかったタヒチ周辺とサモア周辺で現存量が増加し、TrichodesmiumとグループBは異なる環境要求性をもつ可能性が明らかになった。島周辺では窒素固定者の現存量は高かったが、グループにより分布が違う点について、現在、鉄やリンの供給との関連から、解析を進めている。
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