本研究は海洋における物質循環を駆動する「生物ポンプ」の中心部分となる有機物の凝集・沈降速度を予見する数理モデルに不可欠なパラメーターである粒子の表面の粘着性および粒子の固体部分の比重の変動を支配する要因の解明を通じて地球環境の変化に対するこれらの応答を予見するモデルの構築を目的としている。 本年度は海洋表層部を再現した疑似現場実験を行い、栄養塩類の利用可能状況と懸濁粒子の凝集・沈降特性の変動の関連性を検討した。学術調査船「淡青丸」KT09-04次航海(相模湾 平成21年4月)およびKT09・10次航海(相模湾および伊豆七島沖 平成21年7月)、海洋地球研究船「みらい」MR09-03次航海(西部北極海 平成22年9月-10月)およびMR10-01次航海(西部北太平洋亜寒帯および亜熱帯海域 平成22年1-2月)に乗船し懸濁粒子のサイズ分布のサイズ分布の鉛直プロファイルならびに粒子の有効密度のサイズ依存性に関するデータを収集した。海洋表層部を再現した疑似現場実験では4つの実験区を設け、いずれも無機態のリンが枯渇する状況で実験を行ったが、ケイ酸の添加の有無、易分解性有機物としてグルコースの添加の有無の条件を変化させることにより、大型の珪藻および従属栄養性の微生物群集の出現の程度に変化を持たせることを試みた。結果、大型の珪藻群集の出現が著しかった実験区では、含水率の高いゲル状粒子の蓄積が容積的に多量に見られたのに対し、これらの粒子の有効密度は他の実験区に比べ低い傾向が見られた。これらの結果は高密度のケイ酸の殻を形成する珪藻類を含む懸濁粒子の有効密度が必ずしも高くならないことを示しており、沈降粒子の沈降速度を理解する上で粒子の構成成分のみならず、その立体構造の解明が重要な位置を占めることが明らかにされた。
|