研究概要 |
データ同化の手法の1つとして研究代表者が執筆した論文(Smith & Yamanaka, 2007など)内で用いたMonte Carlo Markov Chain (MCMC)を使い、植物プランクトンの組成比の決定に重要な役割をしていると考えられる栄養塩取込速度に重点を置いたモデルを作成し、以下に示す研究成果を得ることが出来た。 (1) これまでのモデルは、植物プランクトンの成長速度を制限している栄養塩取込速度を一定の値で計算を行っている。しかし本研究では、特に植物プランントンの生理動態について着目し、栄養塩取込速度が水中環境で最適化するよう動的に決定される過;SPONGE (Smith & Yamanaka, 2007)を用いた方が、多くの海洋生態系モデルで使われている式;Michaelis-Menten式と比べ、より観測結果に一致することを明らかにした。 (2) SPONGEを組み込んだ海洋生態系モデルにより、植物プランクトンの(元素)組成比は、捕食者である動物プランクトンの栄養状態と成長にも影響があることが分かった。 (3) 北太平洋亜寒帯域で実施された鉄添加実験で得られた観測結果と同モデルを使い、微量元素である鉄と窒素、珪酸塩などの栄養塩間における取込速度と物質循環の関係を明らかにした。(Smith, Ybshie & Yamanaka, Deep Sea Res. I, 57, 2010)。 (4) 栄養塩取込時において、植物プランクトン内におけるグループ間(珪藻と、それ以の種)に競争があり、これに伴うブルーミングの変化についてモデルを使った検証を行った。 これらの研究成果から、生息環境下における栄養塩取込と体組成、グループ間競争、また体サイズによる沈降速度の違いなども、有機炭素、窒素、珪酸塩などの有機物が表層から中深層へ輸送される過程において重要であり、海洋物質循環を議論する上で考慮する必要があるといえる。
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