我々は、コロイド系のガラス研究をいくつかのテーマで行った。1.一つは、時間分離が本質的な2成分系のガラス転移である。その例として、空間的にランダムに不純物が存在する系中のコロイド系と、粒子の大きさが大きく異なる大小2成分の粒子から成るコロイド系の遅いダイナミクスを解析した。不純物コロイド系については、昨年度の成果に引き続き、動的不均一性、フラジリティーなどの定量的解析を行った。その結果、不純物の増大と共に、動的不均一性が抑えられることを示した。また緩和時間や粘性係数の非アレニウス性の度合いを示すフラジリティーは、不純物濃度を挙げると小さくなることを示した。これらの結果は、多孔質系の実験事実と整合している。2成分コロイド系については、モード結合理論による解析を行った。粒子径比が大きい極限では、特徴的な時間の分離が起こり、小粒子の自由度はコロイド系のスローダイナミクスや粘性係数に大きく影響しなくなることが予想されるが、これを示した理論はなかった。我々は大規模な数値解析により時間の分離とその結果として、粘性係数に大きな飛びが生じることを示した。2.もう一つは、柔らかい相互作用系のガラス転移である。通常、ガラス研究では強い短距離斥力相互作用系をモデルとして考えることが多い。我々はそれとは逆に、相互作用が緩やかで長距離的な斥力系のガラス転移を詳細に調べた。その結果、高密度低温におけるスローダイナミクスが極めて多様な振舞いを示すことが分かった。また、長距離相互作用系であるため、ダイナミクスがより平均場的になることが示された。これらの成果は、ガラス転移の平均場描像に迫るための大きな進展である。
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