高分子溶液では、高分子系特有のレオロジー的性質が相分離ダイナミクスに影響を与える。高分子希薄溶液の相分離ダイナミクスは、従来は剛体コロイド粒子系の凝集現象との類推で理解されてきた。しかし、高分子希薄溶液系において、分子鎖のレオロジーは、鎖の形態変化(コイル-グロビュール転移(CGT))の影響を受けると考えられる。本研究では、高分子希薄溶液の相分離過程を詳細に調べ、相分離ダイナミクスに対する、個々の鎖の内部自由度(形態変化)の影響を検討した。 高分子希薄溶液のモデル系として、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)溶液を用いた。希薄溶液中のPMMA鎖の凝集速度は、相分離温度以下でのクエンチの深さとともに増加せず、複雑な挙動を示した。また、この挙動は、鎖のCGTを考慮した鎖の2体相互作用の挙動の計算結果と相関があることが示された。 また、鎖の凝集過程における鎖の形態の影響について調べるため、溶液に2段階のクエンチ(急冷)を行い、初期条件としての鎖の構造と、凝集過程の相関について調べた。1段階目のクエンチの時間に対して、凝集速度は極小値を持つことが示された。鎖のCGTにより、鎖の凝集が抑制されること、長い1段階目のクエンチでは、凝集核の生成による凝集の促進が生じることが示唆された。 高分子の凝集とコロイド粒子の凝集との類推の妥当性について検討するため、散乱関数における凝集体のサイズ分布の効果について解析した。具体的には、コロイド粒子の凝集を表現するSmoluchowskiの式を用いて凝集体のサイズ分布と散乱関数を計算し、実験で得られた散乱関数と比較した。比較的小さいクエンチでの凝集現象については、散乱関数はと計算がほぼ一致した。 また、生体高分子の構造変化と凝集現象(及びゲル化)との関連を調べるため、タンパク質、多糖溶液の凝集現象と異方性ゲル化についての研究に着手した。
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