(1)ベシクル型人工細胞-ベシクル内DNA複製とベシクル分裂の連動 カチオン性膜分子を含む一定の膜組成からなるベシクルを用意し、内部にDNA複製に必要な基質、DNA合成酵素、プライマー、Mg^<2+>をくるみ込み、そのベシクル分散液を熱サイクルにかけることで、ベシクル内部でDNAが平均200倍に増幅することを、蛍光プローブで確認した(PCR法)。次いで、そのベシクルの分散液に膜分子前駆体を添加すると、V*添加直後から数分の間に、内水相でDNAが増幅したベシクルが優先的に複数のベシクルに分裂した。さらに、分裂後のベシクルの内水相が強い蛍光を放つことより、分裂前のベシクルの内部で増幅されたDNAが、分裂したベシクルに分配されているこがわかった。ここで実現した人工細胞においては、増幅したDNAと膜分子および膜分子前駆体の協同的ダイナミクスが、ベシクルの形態変化・DNAの分配を誘発したことに注目したい。 (2)自己複製ベシクルの集団解析と多重膜ベシクルの等分割モデル 我々が完成したベシクル型自己生産系[カチオン性の両親媒性分子からなる多重膜ベシクルに、膜分子の前駆体を取り込ませ、膜内の触媒の作用で膜分子をベシク膜内で生産させ、ベシクルを肥大・分裂させる]について、ベシクル集団(約5×10^4個)を対象として、セルソータおよびフローサイトメータを用いた実験結果を基に、自己生産ダイナミクスのポピュレーション解析を行った。その結果、自己生産したベシクルのサイズが、ほぼ一定に保たれる仕組みが明らかになった。また、神戸大学の梅田准教授は、膜弾性理論に基づく「多重膜ベシクルの等分割モデル」を構築し、その機構を考察している。
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