研究概要 |
生体ソフトマターである細胞膜(リン脂質による2層膜ベシクル)は、環境に応じた様々な形状や、融合・分裂等の膜変形、膜面上でのドメイン構造(ラフト)形成などの多様な挙動を示す。細胞膜の物性および組織化メカニズムを理解するため、リン脂質ベシクルを用いたモデル膜実験を行った。 (1) リン脂質ベシクルの非平衡ダイナミクスとして、界面活性剤との相互作用による可溶化ダイナミクスを実験的に解析した。ベシクルはリン脂質(Dioleoyl-Phosphatidylcholine, DOPC)から形成した。ベシクル溶液を界面活性剤(Triton X-100)溶液とゆるやかに混合させ、可溶化過程の顕微鏡リアルタイム測定を行った結果、膜面にマイクロメートルサイズの膜孔が観察された。膜孔は数秒以内に閉じ、開閉を繰り返しながらベシクルサイズが減少した。また、膜孔が開き続けるダイナミクスも観察された。すなわち、ベシクルの可溶化ダイナミクスには「周期的膜孔(rhythmic-pore)」および「連続的膜孔(continuous-pore)」の2つのパターンが共存した。この2種のダイナミクスは、ベシクルサイズと界面活性剤濃度に依存して選択された。また、物理メカニズムを膜面の弾性エネルギーにより説明できることを示した。 (2) 浸透圧を外場として利用することで2分子膜の側方圧をコントロールし、側方圧変化が相分離パターンに与える影響を蛍光顕微鏡により直接観察した。ベシクルは、不飽和脂質DOPC、飽和脂質DPPC、コレステロールから形成した。温度-側方圧をパラメータとする相図を構築し、脂質2分子膜の相分離構造に対する側方圧依存性を明らかにした。
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