本研究はバルク内の高分子鎖のダイナミクスを蛍光イメージング法による単一分子観察によって明らかにしようとするものである。本年度では、一軸伸張したポリメチルメタクリレート(PMMA)の応力緩和における高分子鎖のダイナミクスを近接場光学顕微鏡による単一高分子鎖の直接観察によって評価した。分子量200万の蛍光ラベルされたPMMAをバルクフィルム中に分散し、そのコンホメーションの変化を追跡した。今年度は分子量依存性に着目し、分子量200万のPMMAに対して種々の異なる分子量のPMMAを混合した系について緩和挙動を評価した。ガラス転移点以上で伸張比λ=2まで延伸した後、所定時間の応力緩和後に急冷することで構造を凍結させることで顕微鏡観察を行った。分子量200万のPMMAのみから成る試料については、複屈折によって評価される鎖セグメントの配向は緩和によって応力とともに減少するのに対して、鎖のコンホメーションについては伸張した形態を維持したままであることが分かった。これに低分子量成分を混合すると、その分率の増加とともに鎖の形態の緩和が促進された。これは低分子両成分の緩和による速いからみ合いの解消が起こったためであると考えられる。 鎖のコンホメーション観察による鎖全体の運動だけでなく、個々のセグメントレベルでのダイナミクスについても検討を行った。メタクリレート主鎖中央に蛍光色素であるペリレンジイミド分子を一個だけ導入し、色素分子の三次元配向状態を決定可能なデフォーカスイメージング法によって、その運動状態を評価した。その結果、ガラス転移点近傍では主鎖セグメントは一定の時間運動した後に再び静止し、所定の時間後にまた運動を再開するという運動の機構が存在することを明らかにした。
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