生きた細胞や生体組織内部では、主として細胞骨格とモーターたんぱく質の働きにより生成された非平衡力により、様々な小器官や構成物質が互いに力学的な相互作用を及ぼしあっている。このような強い非平衡環境下におかれた生体物質(ソフトマター)は、周囲の媒質や自分自身の非平衡度に依存してその性質を大きく変化させる。本研究の初期の目標はその詳細なメカニズムを解明するために、試料の非平衡度や力学的性質を制御しかつ計測できる新しい非平衡力学物性計測システムを開発することであった。 実際には、用途別に複数の当該測定システムを開発した。具体的には、計測試料に外場を印加することで方位に関する対称性が破れた試料の3次元方向の力学特性を計測するシステムと、マクロレオメータにより精密な外場を加えつつ生きている試料の非平衡度を計測することが可能なシステムを開発した。さらに開発したシステムを用いて細胞骨格ゲル(ビメンチンおよびアクチン・ミオシン非平衡ゲル)の力学特性を評価した。 一例として、生体試料(中間径フィラメント細胞骨格ゲル)にずり応力を印加させつつ試験的にマイクロレオロジー計測を行った。このときコロイド粒子の熱運動は、それぞれの運動方向の力学特性を主に反映すると期待される。事実今回の実験では、加えたずり場(xz-方向)に対してvimentinゲルが異方的に硬化することを示唆する結果が得られた(右図)。今回の結果によれば、細胞内部の微視的な力学環境は分子組成や構造の分布のみならず、分子モーターが各所で発生させている応力の向きと分布にも強く依存して変化していることが予想される点で画期的である。
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