窒化物半導体は、深紫外から赤外までの幅広い波長範囲をカバーできるという魅力をもつが、現状では近紫外~青色の領域しか高効率の発光素子は実現していない。この波長範囲の拡大のために、本研究では、活性層の電子状態を量子構造・歪み・結晶面方位などにより制御し、高効率深紫外LED、緑色レーザなどの素子を実現することを目的とした理論研究を行っている。本研究では、(1)深紫外AlGaN材料、(2)緑色領域InGaN材料、(3)赤外InN材料の3つについて研究を行っている。平成21年度の成果としては、(1)においては、従来のc面上素子に比べ、c面オフ基板の採用により、深紫外LEDの発光輝度向上や紫外LDの光学利得向上が実現できることを理論予測した。また、(2)においては、材料パラメータ、及び、In組成揺らぎが素子特性に及ぼす影響について理解を深め、高品質・低コスト緑色半導体レーザの実現に向けての研究基盤を固めた。材料パラメータ関連では、これまで広く信じられてきた「擬立方晶近似」の妥当性に着眼し、本特定領域内の京都大学グループとの連携により、変形ポテンシャルの「擬立方晶近似」からのズレを明確に観測した。さらに、本領域内の筑波大学白石教授との連携により、第一原理計算からもこのズレを示した。これらの知見に基づいて、これまでの代表者の偏光特性理論を「擬立方晶近似」が成り立たない状況でも適用できるものに拡張した。また、In組成揺らぎ関連では、組成揺らぎが非極性InGaN量子井戸の偏光特性に及ぼす影響を明確にし、これまで解釈不能だった実験結果を組成揺らぎ効果で説明することができた。(3)においては、本特定領域内の筑波大学白石教授との連携により、InNの電子状態を第一原理計算とkp摂動の両方から理解する取り組みを開始したところである。
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