液晶分子はマイクロ波のエネルギーを吸収して容易に加熱することができる。この液晶分子とマイクロ波との相互作用により、加熱される非平衡過程を分子レベルで観測する試みを行った。このマイクロ波加熱の分子機構を分子レベルで観測することを目的として、マイクロ波加熱固体NMR装置の開発を行い、液晶分子のマイクロ波加熱による非平衡局所分子構造変化および局所分子動力学変化を分子レベルでIn-Situ観測する実験システムの開発を目的とした。 1) 前年度に開発した固体NMR用マイクロ波加熱装置のラジオ波との分離を向上して、マイクロ波照射中にNMR信号が測定できる装置の開発を行った。さらにNMR分光器のパルスと同期したマイクロ波パルスを発生し、二次元NMRなどの高度なNMR測定が可能なNMR装置を開発した。 2) 完成したマイクロ波加熱固体NMRシステムを用いて液晶の系でパルスマイクロ波照射による温度ジャンプNMR実験を行い、マイクロ波照射直後の液晶のNMR信号のスナップショットを観測した。特に液晶ゲル相転移点付近では大きな相互作用変化が生じて等方相に変化するが、このとき大きなNMR信号の変化を観測することができた。この大きな信号の変化から液晶分子においてマイクロ波のエネルギーを吸収したマイクロ波励起状態を特定することが可能になった。マイクロ波加熱により液晶分子がマイクロ波のエネルギーを吸収する過程を原子分解能で観測するため、マイクロ波過熱を用いた、状態相関2次元NMR分光法を開発した。 3) タンパク質の天然状態と変性状態の状態相関二次元NMRスペクトルの観測が可能となり、タンパク質のマイクロ波変性の観測という新しい分野を開いた。
|