研究概要 |
スピントロニクスの分野では,デバイスの高性能化に向けて高スピン分極電流源の探索が鍵となっている.なかでも,ホイスラー合金と呼ばれる物質群は,伝導電子が100%スピン分極した「ハーフメタル」であると理論予測されており,国内外のいくつかのグループにより精力的に研究されている.当研究グループでは,薄膜成長を原子層レベルで制御することによって合金規則度や界面構造が制御されたホイスラー合金やそれと類似構造をもつ新規合金の薄膜を作製し,原子核をプローブとした局所的な磁性測定手段であるメスバウアー分光法や放射光核共鳴散乱法を用いて規則度の乱れや界面の影響を精密に評価することによって,高スピン分極合金の探索にブレイクスルーをもたらすことを目指している.また,高スピン分極電流源の候補として,強磁性絶縁体によるトンネル効果を用いたトンネル型スピンフィルター素子の研究にも取り組んでいる. 平成21年度は,Co_2MnSnホイスラー合金を中心に,ホイスラー合金薄膜の界面磁性およびトンネル磁気抵抗効果との相関について研究を進めた.その結果,Co_2MnSn薄膜の界面磁気状態が界面で接する物質によって大きく異なることを示す結果が得られた.顕著な界面効果がみられたCrとの界面について,内部磁場の温度依存性を調べたところ,それほど顕著な温度依存性を示さないことがわかった.また,Co_2MnSn強磁性層とMgOバリア層からなる磁気トンネル接合においては,局所磁性と磁気抵抗効果の相関を示すデータが得られた.これらの結果は,ホイスラー合金系磁気トンネル接合で問題とされている磁気抵抗変化率の大きな温度依存性の原因解明に向けてユニークな情報となっている.一方,トンネル型スピンフィルター素子においては,110Kで約4%のスピン分極電流が得られた. 以上のように,高スピン分極電流源の探索に向けて,一定の成果が得られた.
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