表面増強赤外吸収(SEIRA)と表面増強ラマン散乱(SERS)の比較によりそれらの増強機構を考察するとともに、応用を検討した。 1.燃料電池触媒反応の解析:メタノールならびにギ酸は燃料電池の燃料と期待され、Pt表面におけるこれら化合物の酸化反応が古くから検討されてきた。しかし、その反応機構は現在でも解決されていない、SEIRA分光を用いて、われわれは、反応が起こっている電極触媒表面にギ酸イオンが吸着していることを初めて見出し、反応の中間体であることを示唆した。これに対して、ドイツのグループは、ギ酸イオンは単に吸着しているだけで反応を妨害していると主張した。そこで、時間分解SEIRA分光によるより詳細な解析を行い、我々が以前から主張しているように、吸着ギ酸イオンを経由して反応していることを証明した。 2.陽イオンの水和構造と荷電固体表面との相互作用解析:固液界面反応を理解するうえで分子ならびにイオンの水和構造と表面との相互作用を理解することが必須である。電極電位で表面の電荷量を制御することによりイオン濃度を増加させ、SEIRASを用いて界面を選択的に測定するという新しいアプローチを提案し、陽イオン(金属イオンならびにテトラアルキルアンモニウムイオン)の水和構造を明らかにした。また、強い界面電場中で水和イオンを電極表面に強く押し付けることにより、水和イオンと表面の相互作用を詳しく検討し、一定以上の力を加えると水和殻が崩壊すること、崩壊の程度が水和殻の構造に依存すること、疎水性水和殻と疎水表面の間に4kcal/mol程度のエネルギー障壁があることなどを初めて明らかにした。 3.半導体表面でのSERSとSEIRAの理論解析:SERSとSEIRAは、実験的には金属表面でのみ観測されているが、理論計算の結果、半導体表面でも起こり得ることを理論的に示した。
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